夜重が傭兵ギルドまでの道を尋ねると男は快く教えてくれた。男はくしゃくしゃの紙切れをポケットから取り出すと、そこに簡単な地図まで記してくれた。彼はそれを夜重に手渡しながら言う。


「すまないが案内はしてやれん。 こいつ等を保安官に届けなくてはならないからな。 こいつ等よく見てみれば、最近この街で悪行の度合いが増してきて手を焼いていた不良共だ」
「良かった、一般人じゃなくて・・・」


彼らは一度、華奢な少女にぎたんぎたんに伸され、丸太のように地に転がる男たちを見下ろす。けれどすぐに再び顔を上げた。


「まあ道は簡単だ。 場所を知ってればまず迷わないだろ」
「ああ、分かった」


皺の寄った紙の切れ端を夜重は丁寧に手で伸ばす。そして小さく折ってポケットに仕舞い込んだ。そんな彼がふと顔を上げると男はすでに自分の目の前からは消え去っていた。彼は階段に座り込んだハノンの前にいつの間にやら移動し、彼女の前に膝をついている。


「ハノンちゃん、ほっんとーにごめんね! あんなヘタレっちモヤシだけじゃ心許ないとは思うけど・・、」
「誰が! しかも『ヘタレっちモヤシ』ってなんだっつーの!!」


すかさず男に牙を向ける夜重。男はそれを笑いながら受け流す。彼らのやり取りを見ながらハノンは小さく溜め息を漏らした。どうやら今日はまだまだ長くなりそうだ。




男にもらった地図の通り二人は進む。地図に記された大きな丸印。それは大通りに沿って突き進み、時計台を超えた向こう側だった。
時計台を超えてすぐ、彼らの目に煉瓦作りの大きな建物が飛び込んできた。年季の入った深紅の看板には金色の文字で『傭兵ギルドクリムソン』と書かれている。


「ここだな」
「・・・・」


鉄の扉は長年雨風に晒されている所為か黒ずみ、重々しさを増している。二人はその前で一度立ち止まり、上を見上げた。扉の上にはとんがり帽子を被った魔法使いと、刃を掲げてそれに勇敢に立ち向かう強靭そうな傭兵を模った装飾が施されていた。


「行くか」


ハノンが大きく頷いたのを横目で確認し、夜重は冷たく固い扉を押した。



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