いっしょに、かえろう





…こりゃ、大変な奴を拾っちまったか…?
今更になって、自分は未知の存在の身柄を預かっていることに気付いた。ただの子供のように思って行動したのは間違いだったかもしれないとも思うが、もう遅い。
此奴がスコールであることに変わりない以上、ガーデンに連れて帰るのが筋というものだろう。とにかく、現状をガーデンに報告しなければならない。


「帰るぞ、スコール。」
「…僕は “スコール” じゃないのに?」


その言い分も、分からないでもない。
ガーデンに所属しているのは彼奴であって、此奴じゃない。だが。


「んなもん関係ねぇ。お前が帰るところは今も昔も変わってねぇだろ。」
「でも、石の家は…。」
「場所なんて関係無いっつってんだよ。『ただいま』って、ぱぱせんせいとまませんせいに、石の家の奴らに言わねぇのか?」


例えSEEDでなくても、スコールは学園長夫妻の愛する子供の一人で、石の家の家族で。
それなら、帰る場所なんてものは決まっているのだ。彼らの居る場所、それが此奴の帰る場所だ。
それに、ガーデンは身寄りのない子供達の揺りかごなのだから、身寄りのない此奴を連れて帰ることはおかしくない筈だ。


「ほら、分かったら帰るぞ。」


先程の言葉が余程意外だったのか、キョトンとした蒼の瞳がじっと見つめてくるものだから。柄にもないことを言った自覚があることも相まって、気恥しい。
半ば誤魔化すように、手を差し出した。
人里離れた荒野の隅っこに、ひっそりと佇む研究施設の前で。人の往来が多い場所ならまだしも、はぐれることも無いだろうこんな場所で。
そんなことをする必要なんて無いことは分かっているのだ。それでも、どうしても示したかった。帰る場所があることを。
自らの帰る場所を壊してしまったあの時、自分は途方もない孤独感に苛まれた。風神と雷神が居てくれなければ、あの気持ちに押し潰されていたかもしれないと思うくらいだ。
この子供に、そんな気持ちを味合わせたくはなかった。

絶対に言えない。だから、行動に移すしかなかったのだ。
…一緒に帰ろう。


「うん!」


小さな手が、一生懸命に握りしめてくる。
向けられるのは、花が開いたような眩しい笑顔だった。















と、その前に。
流石にこのままの格好で連れて帰ると不審者扱いされかねない。何せ、だぼだぼのインナーをワンピースとして着ているだけなのだから。

だが運がいいことに、最寄りの小さな街にはSEED達が世話になる商店街がある。多少の言い訳は効くだろう。
この辺りには街が無いから、近場に派遣されたSEED達は不足したアイテムをこの街に立ち寄って補充するしかないというだけの話なのだが。街の人間が多少の厄介事に慣れているということには違いなかった。

それに、自分もこの街には何度か世話になっている。真っ当に任務をこなしている姿を見ている住人達からは、嘗ての悪しき魔女側として活動していた印象が薄れていることも大きい。


「顔は出すなよ?」


街に入る前、スコールを抱き上げてジャケットをフード代わりに被せてやる。
此奴には現代までの記憶があるせいか、顔を見られてはいけない理由は察しているようで。こくりと黙って頷いた。








街に入るや、奇異の目が向けられる。傍から見れば誘拐犯にも見えるだろう。
しかし、子供の手がしっかりと自分の白いコートを掴んでいる様を見て、訳アリなのだろうと勝手に納得してくれている辺り、やはりこの街で良かったと思う。他の街なら警察組織に取り押さえられるようなことになっていたかもしれないのだから。

街の反応に内心ホッとして、足早に歩きながら目当ての子供服店を探すことに集中した。
普段の自分には子供服の店など縁もゆかりも無い。寄ったことなんてある筈もなければ、何処にあるかも知らない。完全に己の勘だけで街を歩いていた。
そこで、スコールが動く。
クイクイ、とコートを引っ張って一言。


「サイファー、止まって。」


何を突然、と思いながらも言う通りにする辺り、自分自身がスコールに使われ慣れてしまっていることを実感する。
此奴が元に戻ればまたこき使われる、なんて思っていたりもしたが、案外このままでも使われるかもしれない。
その上、それが嫌でないから、困ったものだ。


「おねえさん、おねえさん!僕が着れそうなこどもの服を売ってるおみせ、知らない?」


スコールはジャケットの下からキョロキョロと辺りを見回すと、大胆にも近くに居た花屋の娘に声を掛けたのだ。ジャケットをフード代わりにしたままではあるが、子供から言ってきたこともあって警戒を解いて教えてくれた。
…なるほど、店をやってる地元の人間に聞けば店の場所は間違いなく分かる。それにしても此奴、オレが話しかけると怪しまれることまで計算して自分で聞きやがったな。
大した奴だ、と感心半分畏れ半分で思ったのだった。








教えてもらえば、子供服店に着くまでにそう時間は掛からなかった。しかし、着いたは良いが入店して直ぐに、怪しまれてしまった。視線が痛い。
…普通そうだろうな。店員に軽く事情を説明しとく必要があるか、メンドくせェ。
だが勿論、本当のことは話せない。適当に話を作るしかなかった。

自分はSEEDで、とある要人の子供の誘拐事件に駆り出されたこと。そして、その子供を助けたはいいが服がボロボロになってしまったこと。未だ狙われる可能性がある為に、顔を隠せるようなフードのある服が欲しいこと。
でまかせではあったが、此処まで話せば店員は信じてくれたようだった。
嘘の中に所々真実が混ざっている、巧妙な嘘だと思う。交渉事が不得意な自分にしては上出来だろう。

此奴を連れての買い物がこんなにも大変だとは思わなかったが、やっとガーデンに帰れる。これで一安心だ。
元のスコールが失踪した根本の問題は全く解決していないが、この際気にしない。無事な帰還が第一だ。無事かどうかと聞かれれば、子供になっているのだから無事ではないのだが。








「服、ちゃんとサイズ合ってるか?」
「大丈夫。ちゃんと店員さんがえらんでくれたよ。」
「…買ったばっかの服に零すなよ。」
「わかってる!」


バラム行きの電車に乗り、向かい合う席に座って、二人して駅弁を食べる。
その姿を見るに、無邪気な年相応の子供だ。
だが、此奴は普通の子供じゃない。傭兵として育てられてきた記憶が、世界を救った “伝説のSEED” の記憶が、英雄になって苦悩していた記憶が、確かにあるのだろう。
そしていつか、近い未来。此奴は18歳のスコールに戻る。
戻らなければならない。

それは、誰が決めたことだろう。
此奴はそれを、望むのだろうか。
もし拒むようなら今度は。
今度こそ─────

未来のことは、まだ分からない。
ただ一つ分かるのは、これからこの子獅子をガーデンで保護することになるだろうということ。
ただせめて、子獅子と過ごす…恐らく限られてしまうだろうその時間を、大切にしようと、漠然とそう思った。















再び苦悩する生活に戻らなければならなくとも、今のお前が笑っていられるように。










【後書き】

3話坊主じゃなかった!!!
取り敢えず、基盤となるストーリーが終わったので。これから好きに子スコさんのお話が書けまする(笑)

実はここまでで、4話分の最後1文を見ていくとサイファーさんの気持ちというか、スコールさんに対するサイファーさんの見方みたいなのが変わるように意識して書いてみました。

1話の最後ではスコールさんが居なくなったことについてしか考えておらず、子スコさんには触れてません。
2話の最後では一時的に子スコさんの面倒見なきゃな、と。普通の子供としてしか見てはいなくて、子スコさんについてはよく考えていません。
3話の最後では子スコさんと過去のスコールさん、両方を見ています。
そしてこのお話でやっと、子スコさんと向き合ってる…みたいな!!!そんなのにしたかった(願望)


2016.03.24






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