きえた、しし





実験装置の中に入ったスコールは、いつにも増して愛想の無い顔で。本当にやりたくないのであろうことが、一目で分かった。
それでも、何も言わずに大人しくしているあたり、成長したのだろうと思う。いや、スコールの場合は黙っていることの方が多かったのだから、あまり変わっていないのだろうか。

そんな姿を、ガラス一枚隔てた場所から見つめながら、途方もないことを思う。
… “英雄” なんて檻から逃げられねぇなら、そんな檻ぶち破って逃がしちまおうか…。
きっと、自分にならそれが出来る。
けれど、それをしないのは。








それを、しなかったのは─────。















実験は始まった。

間もなくして、スコールの入っている装置のガラスが一瞬にして曇る。それと同時にけたたましい警報音が機械から発せられる。
研究者共の表情が、纏う雰囲気が、変わる。


「オイ、うちの指揮官は無事なんだろうな!?」


ガーデンの主要人物であり、稼ぎ頭でもあるスコールは、ガーデンにとって大事なエースカードだ。そして、かけがえの無い家族で仲間…なのだろう。
だからこそ、今や高ランクSEEDとなった自分まで付き添っているというのに。


「分からない。早く開けろ!とにかく、中の被験者を───」


警報が止み、研究者共がスコールを装置から出そうと動き出す。先程の故障か何かで固く閉ざされた扉は、ひ弱な研究者には開けられないようだった。
扉を開けようとしている研究者を突き飛ばす勢いで退かし、扉を剥ぐようにしてぶち破る。

ただただ、必死だった。
周りのことが、見えないくらいに。
周りの声が、聞こえないくらいに。
果たしてこれは、任務だからだろうか。

自分は護衛の為の付き添いで、スコールを無事にガーデンへ帰すことが今日の任務だった。
腕っ節の強い英雄に護衛なんて、と。ただのお飾りにも見えなくはないが、複数対一になれば幾ら強かろうと苦戦を強いられる。それなりに意味はあるのだ。
此奴がよからぬ事を考える輩に襲撃されることを予期してのそれは、今まで実際にあった襲撃事件のことを踏まえてのことなのだから。
…それなのに。襲撃でも無く、ただの実験で此奴を失う?そんなことあってたまるかよ!








扉を開けて、白い煙の充満した中から出てきたのは、小さい毛玉。
見上げてくるのは、ビー玉のようなまんまるの双眸。

こうして最初の話、冒頭部分に戻るのだ。















子供のスコールを見た研究者共は、口々に憶測や意見を出し始める。
18歳の彼奴が居なくなったことも、子供の此奴が出てきたことも、このヒトデナシ共には面白いものでしかないというのか。腹立たしい。
研究も実験も、これに懲りて安全な方法を模索するなんて気は無いようだ。また同じことを繰り返そうとしていることは、専門知識の無い自分にも分かった。


「その子を此方に。」


此方に懐いているスコールを引き剥がすように手を伸ばしてくる。小さい肩が、これまた小さく震えるのを見逃しはしなかった。
…嫌がってる?…いや、怖がっている…?さっきまでの彼奴も、本当は怖かったのか…?
そう思えば、行動は早かった。殆ど条件反射と言ってもいい。


「汚ぇ手で触んじゃねぇ!!」


正確には触ろうとしただけで、スコールに触れてはいなかったが。そんなことは構わずに、伸ばされた手を叩き落とした。どうしても我慢ならなかった。


「ガーデンとの契約はまだ終わってませんよ、アルマシー君。」


忘れているのか、契約違反になるぞ、と。
まるで此奴が所有物かのように、契約を交わしているから当然だとでも言いたげに。此奴を道具として使おうとする、その腐った根性を見て。

何かが切れた。








「馬鹿言ってんなよ、テメェ等。」


自分でも驚く程、低い声が出た。
まるで、野生の獣のように。低く唸り、威嚇するように。
研究者の手に怯えるスコールを、少しでもヒトデナシ共から離そうと、自分の背に隠す。子を護る親の如く。


「 “伝説のSEED” が消えたのは誰のせいだと思ってやがる?」
「彼はそこに居るだろう」


怪訝そうに幼子を見る。その目からは、実験のことしか頭に無いことが見て取れた。
何もわかっちゃいない。


「何処にだ?この子供のどこにそんな要素がある?…いいか、“伝説のSEED” はたった今居なくなったんだよ、テメェ等の実験のせいで!」


これ以上、スコールを殺すな。
此奴は、道具じゃない。実験材料でもない。
英雄でも、伝説のSEEDでもない。
世界の押し付けが、どれだけスコール自身を殺しているかも知らないで。勝手なことほざいてんじゃねぇ!


「 “伝説のSEED” を消したのは、殺したのは…テメェ等の失態だろうが!契約も何もかも…どう落とし前付けてくれんだ?」


契約には、スコールを無事にガーデンへ帰校させることも条件としてあった筈だ。
無論、研究者側からガーデンへの支払いは約束されていたものの、ガーデン側は最後まで契約することを渋った。

何故なら、表には出さずともスコールが相当嫌がっていたことは、家族同然の学園長夫妻と石の家メンバーには分かっていたから。
さらには、各国の長達の中で唯一反対した人物…エスタ大統領のラグナが企画自体に猛反対していたことも大きい。世間は誰も知らぬとは言え、彼らは血の繋がった親子なのだ。
彼の反対が親としての愛情故と知るからこそ、ガーデンは…学園長夫妻は契約を交わそうとしなかった。

だが契約を断れば、各国の長達の意思をガーデンが蹴ったことになってしまう。そんなことをすれば、ガーデンの経営が立ち行かなくなるだろう。
だから、最後の最後にどうしても、せめてこれだけはと。学園長夫妻が『スコールを無事にガーデンへ帰校させること』を条件の一つとして提示したのだった。

…だったら。


「こんな子供に執着してねぇで、さっさと彼奴を取り戻す算段を考えてもらおうか?
…つっても、そんな直ぐには出来ねぇだろうから今日は帰らせてもらう。
ああ、それと。此奴はガーデンが責任持って面倒見るから安心するこったな。」


わざと『責任持って』と言ってやった。
聞くやいなや顔面蒼白になる研究者共を見ていて、少しだけスッキリしたような気がする。
やっと事の重大さを理解したらしい。

これで、残る問題は一つ。















此奴、これからどうしようか。










【後書き】

パパサイファー(笑)
サイファーさんは、大きいスコールさんも小さいスコールさんも好きだと思うのです。愛情の伝え方は違えど、凄く大事にしてくれそう(小並感)
そんなドリーム。

何かあんまりほのぼのしてない…?
あれ、予定と違…(((
せめてほのぼのさせられるまで頑張りたいです!(汗)

2016.03.21






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