こじし、ばくたん!





「いや…何でこうなるんだよ!?」


思わず叫んだ。
目の前にはダークブラウンの毛玉。
ビクッと大きく震える小さな肩。
目一杯に開かれた澄んだ青色の大きな瞳。
今にも零れそうな透明な雫。

怖いんなら逃げりゃ良いのに。
我慢なんてせずに泣きゃ良いのに。

そのどちらもせずに、一生懸命に此方を見上げたそれは。


「…さい、ふぁ…?」


到底、子獅子なんてものには見えなかった。















見覚えならある。
そう、見たことならあるのだ。とうの昔に。

スコールの幼少時代。それはもうそっくりだ。というより、そのものだ。
スコールの下に弟が居たとか、はたまたスコールの子供だとか、そんなものではなくて。
本当に、幼少のスコールそのもので。

今現在の、18になりたてのスコールは失踪してしまい、今此処には居ない。
正確には失踪したわけではないのだろう。
恐らく、此奴になったのだ。確証が無い以上、断言は出来ないが。


「あー…、そうだ、サイファーだ。お前、スコールか?」


取り敢えず、聞かれたことには答える。
子供の相手は多少慣れているものの、スコールが相手というだけで、どう話せばいいのか全く分からなくなる。
この子獅子に、18歳のスコールの記憶というものは無いのだろう。
…あいつはこんな、今にも泣きそうな顔はしない。オレの前なら尚更。


「…うん。」


聞くなり安心したようにはにかんで、そしてこくりと頷く。実に嬉しそうな顔だ。
…いや、何があった!?さっきまで泣きそうだったろうが!
此方がそんなことを考えてるなんて露とも知らない子獅子は、とてとてと小さな足で近付いて。そして、止まる。
自分の隣で。


「ッ!?」


待て待て待て!?お前何やってんだ!?
あまりの出来事に声が出ないことがもどかしい…!

オレのズボンを掴むな!
嬉しそうに笑うな!!
懐くな!!!


「サイファー…♪」


どうしてそんなに上機嫌なんだお前は…。
牙は、爪は、翼は…どこに置いてきたんだ。
子獅子どころか、子猫だろう、お前。小動物かよ。

そんな風に思った昼下がりだった。













*  *  *  *  *  *  *  *  *  *













実験は失敗に終わった。それも、ただの失敗ではない。最悪の事態、最悪の結果だ。
伝説のSEEDは失踪、密かにガーデンの守護神とも呼ばれている存在が居なくなった。それは、ガーデンの運営にも生徒達にも大きなものだった。

今はまだ、ガーデン内で収まっているが、いつ世界が気付くとも限らない。
何せ、失踪したのは今世の救世主なのだから。








世界では、伝説のSEEDの情報を完全補完した状態で後世に残す為の試みがなされていた。
国や人種を超えた一大プロジェクトと言ってもいい。
無論、そのプロジェクトの根本には、悪しき魔女に対する警戒心と恐怖心がある。それだけ、未来の魔女アルティミシアの起こした出来事は、人々に負の感情や印象を植え付けたということだ。

万が一にも、未来で悪しき魔女が復活を遂げ、再び世界を滅ぼさんとするならば、もう二度と伝説のSEEDに接触するような真似はしないのではないかと囁かれていた。
魔女の目的が時間圧縮であったとは言え、別の時代にアプローチ出来るようになっていないとも限らない、との声が挙がっていたのだ。
つまりは、伝説のSEEDに気付かれないもっと過去の地点から侵食し、延いては全てを飲み込むように圧縮する。そういったことがあの魔女に出来ない、とは言いきれなかった。








国の長達は、スコールのことを道具としてしか見ていなかった。
所詮、英雄なんてものは民衆が作り出しただけの虚像に過ぎない。彼奴自身もそう言っていた。

事態が終結したというのに、尚も英雄を望む世界を見て、聞いたことがあったのだ。嫌気が差したりしないのか?と。すると─────
『さぁ…?でも、余りいい気分はしないな。
何も知らない癖に、まるで俺の全てを知っているかのように世界が語って。俺じゃない “俺” を好き勝手に作っていくんだ。
結局、英雄なんてものは理想の押し付けなんだろう。俺はそんな聖人でも、化物でもないのに。』

なんて、彼奴にしては珍しく素直な感情を吐露していた。それも、こんなにも饒舌なことは今までになかったというのに。余程鬱憤が溜まっていたんだろう。
それ以来、何度かこういった “世界の押し付け” について愚痴を零すことがあった。

そんな虚像の英雄を演じることを強要され、それを完璧にこなしていた。それでもまだ、世界はスコールの守護を望んだ。現状に満足することなく、未来までも約束しろと宣った。
祀り上げられた英雄なぞに、拒否権なんてものは無いに等しい。本当はそんなことやりたくないだろうに、研究に実験に駆り出されていた。








研究成果は上々。
スコールの遺伝子情報は勿論のこと、過去から現在に至るまでのルーツや、思考回路なんかも調べられていたらしい。
…他にも色々あったんだろうが、んな難しいこと分かるわけねぇ。

研究が終われば、直様再現の為の実験に入った。
いくらスコールの遺伝子情報があったとしても、成長過程が違えば “伝説のSEED” にはなり得ない。だからこそ、研究されていたスコールのルーツを再現する技術が必要だったのだ。
…過去から現在への記録復元回路とか何とか。専門的過ぎて、一般人には到底分かり得ないことなんだろうな。








我が儘な世界の為に、彼奴はその身を差し出した。
差し出さなければいけなかった。















その結果が、これか。










【後書き】

爆誕(事故)!!!!!!!!!!っていうお話でした(雑)

正直、毛玉が書きたかったので満足です。
小さい頃はあの茶髪がぽふぽふ跳ねてたのかと思うと可愛いなって、それだけの話です、エエ。

サイファーはもっと遡って…赤ちゃんくらいのときは、きっと天使のような可愛さだったと思うのです( ˇωˇ )
幼児期も可愛いとは思うけど、やんちゃ坊主っぽいなぁ、と。

あと、サイファーさんは子供がいっぱいのガーデンで風紀委員をしてるから、きっと子供の扱いは上手いと思う…思うのです。何だかんだ面倒見は良いよね!?って。



さて、そんな感じで始まりました。こじしシリーズ。…いや、シリーズになるのか?これ。
一応シリーズになる予定です。3話くらいで終わったらごめんなさ(((
せめて三日坊主ならぬ三話坊主になります。三話は確定です、宜しいですね!?()

2016.03.21








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