獅子は、猫か否か





2月22日の朝、楽しげな魔女の声から日常風景の崩壊は始まった。








「おハロー!皆、今日は何の日か知ってる?知ってるよね!」


興奮気味な声で言うが、無邪気な筈の笑顔の裏にある、有無を言わさぬ気迫を隠しきれていない。手には猫耳カチューシャと猫尻尾付きベルトが握り締められている。
唐突の訪問とその話題に、会議室にて朝礼を行っていた面々は苦笑いを浮かべる。魔女の質問する“今日が何の日”かを知っていようとも知らずとも、彼女の魂胆を何となく察するのだった。

これはトンデモ事件を巻き起こすつもりだな、と。








「それで…何の日なのかしら?」
「にゃんにゃんにゃん!の日だよね〜」
「そう!セルフィ大正解!」


任務に支障が出ないものでありますように、と祈りながらキスティスが問えば。
私知ってる!とばかりに、セルフィがすかさず答える。両の手をきゅっと丸めて可愛らしく猫の真似をするのも忘れてはいない。
それを見て、質問を投げかけた張本人たるリノアは、よくできました!と満足げに頷く。

きゃっきゃとはしゃぐ2人と見守る1人。
そして、それを遠目から見つめる瞳が8つ。

またお祭り騒ぎするのか!と意外に乗り気なゼル。
セルフィがやりたいなら付き合おう、と優しく微笑むアーヴァイン。
よくもこんな頻繁にトンデモ事件のネタを見つけてくるもんだ、と呆れとも感心ともつかない微妙な表情で首を竦めるサイファー。
任務があるのに振り回されるのは困る、と気配を極限まで消して退室しようとするスコール。

実に様々な反応を示す男子組。中でもスコールは極度のお祭り騒ぎ嫌いだ。それをよく知るからこそ、リノアにとって…いや、この面子にとってスコールの行動は予想範囲内だった。
故にリノアは目敏くスコールの行動に気付き、後ろから腕を掴むことが出来た。


「ダメだよスコール、主役が居なきゃ始まらないじゃない!」


スライドドアのボタンに手を掛け、後は出るだけだったスコールの動きがピタリと止まる。
『主役』という言葉から感じる不穏さと、背後から感じる押し潰されそうな程のプレッシャー故に、なかなか振り返る勇気が出なかった。しかし、緊急時だったとはいえ一度はSEED指揮官として活動した者がそれではいけないのだと己に叱咤し、確実に、だが恐る恐る振り返ったのだった。

そこでスコールが見たのは、幼子が新しい玩具を見つけた時に見られる、無邪気でありながら時に残酷な表情。実に楽しげに笑顔を向けるリノアは、完全にスコールを使って遊ぶ気満々で。
ああこれは逃げられないな、と内心遠い目をして逃亡を諦めた。


「スコールが主役ってどういうこと〜?」


至極真っ当な質問をアーヴァインが投げかける。それは逃亡に失敗したスコール自身も問いたかったことだ。
部屋に居る全員がリノアに注目する。
しかしリノアは、それは最後までのお楽しみなの、と首を横に振るだけであった。
それに対し、なら早く他のこと話してくれよ、と内容を知りたくてうずうずしていたゼルが話を促す。


「では、本日より4日間を猫期間とし。期間中、皆には可愛い可愛いにゃんこになってもらいまーすっ!」


満面の笑みで答えながら、握り締めていたなりきり猫セットを見せびらかす。1セットしか持っていないと思いきや、紙袋を持ってきていたらしく、その中に全員分用意されているようだ。


「4日間は長くねぇか?」


この催しは決定事項なのだろうと阻止することは諦めつつも、期間についてはせめてもう少し短くならないものかと思っていた一同は、サイファーの一言に心の内で拝む。
いくらお祭り騒ぎに賛成していようともいなくとも、此処に居るのは山ほどある任務こなさねばならないSEED達。それ程長期間でないとはいえ、何かするなら一日だけに集中させて欲しかった。

そんな一同の希望も虚しく、リノアの返答は謎のこだわりに満ちていた。
2月22日から2月25日までは猫に当てはまるらしく。にゃんにゃんにゃん、にゃんにゃんみゃー、にゃんにゃんしゃー、にゃんにゃんごろん…と続くらしいのだ、リノアによれば。
それを聞いた今、この空間には諦めムードが広がっており。スコールに至っては、そんなこだわりは捨ててくれ、と頭を抱えている。


「具体的な内容は?何をしたらいいのかしら。」
「期間中に猫耳と猫尻尾をつけるだけ!あ、首輪とか鈴とかもあってもいいよ?」


スコールに同情の眼差しを向けつつ話を進めるキスティスに対し、リノアはいとも簡単そうに答える。
がしかし。その期間中ではいついかなる時も猫セットを着用していなければならないと付け加える。でなければ面白くない、と。
どんな羞恥プレイだ、と突っ込める者は居なかった。それどころか、女性陣に関しては意外に乗り気である。常識人のキスティスまでもが、だ。


「帽子につけるのはダメかな?」
「あ、それも面白いかも!」

(問題はそこじゃないだろ!)


帽子を取りたくないアーヴァインは苦肉の策ながら提案し、すんなりと容認される。安堵した面持ちのアーヴァインに、スコールは心の声量マックスで突っ込むのだった。


「他に質問は?」
「無いよ〜」
「それじゃ、皆お待ちかねの主役の話しよっか!」


待ってました!と皆がリノアに注目する中でサイファーだけは、主役と聞いてギクッと身体を強ばらせるスコールを見ていた。


「スコールってライオンが好きでしょ?そのライオンって、ネコ科らしいの!だから主役はスコール!」
「オイオイ…ネコ科以前に、ライオンは架空の生き物じゃなかったか?」

(サイファー…!ナイスフォロー!)


驚きの一言に呆然とするスコール。すかさずサイファーが突っ込んでくれるものだから、普段なら決して思わないが今回ばかりはサイファーに素直に感謝した。
しかし、その程度で引き下がってくれるほど甘くはなかった。


「架空の生き物だけど…そのモデルになったのは猫ってことでしょ?ネコ科って言うのはあながち間違いでもないんじゃない?」
「間違いでないとしても、ライオンはライオンだ。」
「でもネコ科はネコ科なの!」


リノアの返答に、サイファーはお手上げとばかりに目線を寄越すもので。まだ諦めるわけにはいかないスコールは食い下がる。
その様子にリノアとスコールを除いたメンバーは、このまま言い合ったとしても平行線だろう、と結論を出す。お互いに引くつもりは無いようで、これは困ったとアイコンタクトを取りながら二人をどうやって宥めるかを画策する。
その中で一人、悪い顔で笑んでいる男が動いた。それはもう、生き生きと。






「ああそうだ、オレは猫役はしねぇからな。」






まるで言い忘れてました、という風に宣言する。先程まで言い合っていた筈の二人は、急に何を言い出したんだこいつは、と言いたげにサイファーを見つめる。
さっきまで嫌がる様子も見せていなかったのに、とリノアの瞳が。あんただけ逃げるつもりか、とスコールの瞳が言っている。


「猫以外ならやる、って口振りよね?何企んでるの?」
「何も企んじゃいねぇよ。ただ、猫が居るなら飼い主がいねぇとな?」

『…それ、スコールにちょっかい掛けるための口実でしょ!』
『何だって良いだろうが。お前こそスコールの猫耳見たさで来たんだろ?』
『なっ!そんなことないっ、私は純粋に皆の猫耳が見たいだけなのー!』
『全然純粋じゃ…いや、そんなとはいい。それより、オレ様の猫耳優先しちまって良いのか?折角言い合い止めてやったんだ、お得意の強引さで猫耳付けてやれよ。』
『!! そ、そっか!今の状況なら丸め込めるね!』
『交渉成立だな?オレは飼い主役で、お前らが猫だ。』


急に小声で話し出したリノアとサイファーを見て、同盟が結ばれていると気付かない者は居ないだろう…スコール以外であれば。
何故かといえば、スコールは今が好機だとばかりに二度目の逃走を図ろうとしていたからだ。

無論、それに気付かない二人ではない。手を組んだ二人によってスコールが捕らえられるのは一瞬の出来事だった。
サイファーがスコールを羽交い締めにし、リノアがすかさず猫耳カチューシャと猫尻尾ベルトを着用させる。
スコールとて抵抗はしたいのだが…サイファーに多少蹴りを入れてしまおうと構わなくとも、リノアが居ると抵抗する際に当たってしまうかもしれない。そう考えるからこそ、大袈裟な抵抗は出来なかった。


「はい、これで主役はスコールね!サイファーが飼い主役やってくれるから、言うこと聞くんだよ?」
「は!?」
「安心しろ、オレ様は寛大だから無茶ぶりはしねぇ。」

(そういうことじゃないだろ!?サイファーめ、一人で逃げたな…!)


スコールが抗議の声を上げるも、決定事項としてリノアに突きつけられてしまえば、これ以上食い下がることも出来ず。結果、大人しく猫耳を着けられたままで居ることになる。
先程はフォローに入っていたというのに、あっさり掌を返したサイファーが恨めしくてならない。

気付けば、飼い主役のサイファー以外は皆、猫耳に猫尻尾という出で立ちをしていて。これから4日間、この異様な格好で過ごさねばならないと思うと気が重くなるスコールだった。










【後書き】

大幅に遅刻!!!
日記に書いていた夢のお話が進まないので、ちょっと別のことしようと思ってこうなりました。書き始めたの2月25日ですしね…し、仕方ない()



ええと、何が書きたかったと言えば、特にない!
取り敢えず「ライオンってネコ科らしいよ!」からの猫セットを付けたかっただけという。
原作のスコールさんて男らしい感じするけど、ディシディアのスコールさんて可愛くないですか???猫耳付けたくなりませんか?気の所為?フィルター掛かってます?アッ、そうですか…手遅れですか(自己完結)

ま、まぁわけが分からないのはいつものことですしね(汗)
そもそも壁打ちサイトだし!!!(遠い目)

そんなこんなで特に意味はない猫の日話でした〜

2016.02.27







そういえば、ドアノブって書いたけど嘘っぱちでしたね。こっそりスライドドアに書き換えておきました(笑)

2016.03.01











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