災難な前日


8月22日 22:30 B.ガーデン 男子寮 とある一室にて






今日はスコールの方が早く部屋に戻っていた。サイファーが任務から帰ってきて部屋に戻ると、どこか落ち着かない様子のスコールが忙しなく動いている。ある種、挙動不審に見えなくもない。
どうやら此方には気付いていないらしい。扉の音がしたというのに、だ。珍しいこともあるものだと思う反面、ここまで落ち着きのない恋人を目の当たりにすると正直心配だ。普段が落ち着き過ぎだと言いたくなる程の人物だから余計に。
これは声を掛けるべきか、放っておくべきかと悩んだが、結局のところは近付きたい、触れたいという欲求が勝る。


「ただいま。」
「っ、おかえり。遅かったな。」


声を掛けると驚いたように振り返るスコール。一瞬何故か気まずそうに泳がせられた瞳は最終的にサイファーを捉える。確かにサイファーを捉えているというのに、意識はどこかに置いてきたかのようだ。やはりおかしい。一体、何があったというのか。
ああ、それは…と今回の任務のことを話しながらスコールを観察する。どうしたんだ、と聞くだけでは恐らくはぐらかされるだろう。確信を持って聞かねば、彼は答えることを拒む。特にサイファーが絡んでいることに関してはその傾向が強い。迷惑がかかるだとか、何か宜しくない事態であるときには、必ずと言っていいほど落ち着きがなくなるのがスコールという男だ。

それにしても、とサイファーは思う。落ち着きがなくなるとは言えど、本来の彼は自分の気持ちを隠すことが上手い性質だ。パッと見ただけでは落ち着きがなくなっているなど気付かない、それくらいの僅かな違いなのだ…いつもは。
それなのに今はどうだ。明らかにおかしい。彼のあの驚き方からして隠そうとはしているのだろうが、それにしても隠せていない。

話を終えたところで、らしくもなくサイファーは思わず眉間に皺を寄せていた。
そんなサイファーの様子にスコールの眉間にも皺が寄る。そして、目線だけでどうしたのだ、と問うてくる。
部屋で2人きり、見つめ合いながら…眉間に皺を寄せている。何とも滑稽な場面が展開されているが、それをからかう者も暖かく見届ける者も、突っ込む者でさえも此処には居ない。

同じ部屋で平穏な日々を送るようになって、少しの触れ合いでギクシャクして、同じ思いを抱えていることを知って、自然と恋仲と呼ばれるものになって…そこまで来てようやっと分かってきたのだ、彼の僅かな心の動きと僅かな反応の違いに。
スコールと共に魔女と立ち向かった仲間達ですら気付かないそれを感じ取り、さり気なく背を押してやったり軌道修正してやったりと…その役目はサイファーにしか出来ないもので、サイファー自身もその役目を誰かに譲ってやる気は無い。誰よりもスコールの近くに居る者としての、ある種特権だとさえ思っている。

サイファーが感じたのは危機感だった、スコールの様子がおかしいことはそうだが、自分の役目が誰かに取られてもおかしくないこの状況に対しての、それ。こんな状態のスコールをこのまま放っておくなど、出来るはずがなかった。
つい先程までの、聞くのは確信を持ってからだという考えはすっかり頭から抜け落ちていた。


「何があった?」
「は?…別に、何もない。」
「嘘ついてんじゃねぇよ。隠さず言え、そんなにオレは信じらんねぇか?」


スコールの両肩を掴み、射抜くような瞳で問うサイファーはいつになく真剣だった。


「何でいきなり、俺があんたを信じてないなんて話が出るんだ。」
「お前が隠し事するからだろうが。気付いてねぇだろうが顔に出てんだぜ?」
「っ…。」


スコールは隠し事云々よりも、サイファーとの信頼関係に関しての言われ方が心外だったらしい。2人の話の重大だとするところは完全にズレていた。
だが、サイファーの言う顔に出ているという台詞は正にその通りだった。普段のスコールならば、何か起こると疲れがより滲み出る筈なのだが、今回は顔がどことなく蒼白いのだ。

サイファーは、余程悪いことでもあったのだろうかと心配しての発言したのだが。言葉に詰まり、俯いて一向に口を開こうとしないスコールの様子に、浮気でもされているのかと疑念が芽生え始める。
まさかな、と思う反面、いつになく強情なスコールを見ると当たりかもしれない、と思うのだ。


「何もないのに顔面蒼白なんだとしたら、貧血か?任務で怪我したわけでもねぇ、ましてや女じゃねぇんだからそりゃねぇよな?」
「…俺にだって、隠したいことの一つぐらいある。」


どうも言葉のやりとりが苦手なのはスコールだけではないらしい。その証拠に、サイファーの言葉は明らかに喧嘩を売っていた。
ぼそりと聞こえてくる声は当然、ムッとしている。

人間は一度疑念が芽生えると、その考えにしか辿り着けなくなる所がある。サイファーは今まさにその状態に陥っていた。


「スコール、お前な…そりゃ別の相手が出来た、とかか?やっぱり気持ち悪い、ってか?だとしたらオレには言えねぇよなぁ。」
「っ、違う!そんな…、あんたが居るのに何で…俺が、他の奴となんて…!」


疑念はサイファーを暴走させていく。思わず口にした突飛な言葉に、本当にそうだとしたら?と自問すると胸が締め付けられる。そうだ、と返ってきたら?と思いかけて、それは彼の凛とした声に否定される。
その声にハッとした。凛とした声なのだ…だが、さらに続く声は必死に強くあろうとしているものだった。この恋人は、また隠そうとしているのだ。今度は、サイファーが離れていくのではないかという不安を。
それを抱かせたのは、紛れもない自分だった。


(日付が変わったらこいつの誕生日だってのに…。何でこんなことになってんだ?)


元はと言えばスコールの様子が変だったことが発端だった。純粋に心配していたはずだというのに、どうして恋人を悲しませようとしているのか…自分の思考の突飛さにほとほと呆れた。こんなはずじゃなかったのだ。
ここは素直に謝るが吉だ。もしかすれば、スコールも落ち着いて話してくれるかもしれない。ともあれ、素直じゃないお互いがカッとした状態で会話を続けるのは非常に宜しくない。

スコールと共に過ごすようになって、お互いに変わったことの一つが『言葉にすること』だった。今までなら、例え自分の非を認めようとも、どれだけ相手を心配していようとも、口になど絶対にしなかったであろう言葉。それを口にしなければ伝わらないと知った…正確には、伝わっていてもツンケンし合っていつまで経っても解決出来ないことに気付いたのだ。


「悪かった。んなこと言わせたいわけじゃねぇんだ。」
「…分かれば、いい。」
「けど。今日のお前は明らかに挙動不審だし顔面蒼白だ。アイツらがこんな状態の…何も隠せてないお前を見たら、真っ先に原因を知ってるかと聞かれるのはオレだ。なのにそれは無かった。だとしたらお前が変になったのは…オレと2人きりになってからだろ?」
「その話は終わったんじゃないのか。」
「待て待て、だから浮気云々とは言わねぇよ。けど、お前の様子がおかしいのは事実だし…その。あ゙ぁーもう!お前を心配してんだろうが!!」


やはり二人して言葉は苦手だった。サイファーに関しては素直じゃない上に言葉選びが苦手なせいで伝わらない。ようやっと素直な言葉を言えたのは、ヤケクソになったからだ。
その健闘に対して、スコールはぽかんとしていた。


「んだよ、なんか言えよ。」
「え、…いや……、その。…ごめん。」


今度はサイファーがぽかんとする番だった。子供のように謝るスコールは必死に言葉を探しているようで、サイファーを見据えたまま続く沈黙は隠したことを打ち明けてくれるという証でもあった。








たどたどしく紡がれた話によると、どうもリノアが原因らしい。彼女はサイファーの元カノであり、スコールの元カノでもある。何とも微妙な関係性の3人になるので、リノアにはサイファーとスコールのこの関係は告げていない。
が、スコール曰く…誕生日当日に“恋人と”休日を共に過ごせる魔法をかけられたのだそうだ。それも、8月1日の時点で。
何故それを真っ先に言わなかったのか、と問い詰めたくなるが、今の今まで経過した時間は戻らないのだから今更だ。

それよりも大きな問題がある。
一つはリノアが“スコールの恋人”がサイファーであるとは伝えていないのに魔法を使っていること。
もう一つは、サイファーもスコールも明日…スコールの誕生日当日が休みでないこと。
そして最後の一つが、リノアの魔法の内容が分からないこと。
この3点を含めると、非常にまずい状況になるであろうことは確定したも同然だった。
導き出されるのは当然、スコール1人が犠牲になるであろうものでありながら、2人に仕事が回せなくなるようなトンデモないもので、2人には想像もつかない魔法である、ということだ。

それでも、彼女はきっと2人を満足させるには十分のそれを掛けてくれていることだろう。今更掛けられた魔法を無効化することは不可能。ここまできたなら、その魔法を楽しんでやるまで。
サイファーは、どんな魔法であろうともスコールが忘れられない…忘れたくないと思える過ごし方をしようと心に決めた。






話を終えて俯く彼を見て、ふと思う。あれだけ頑なに黙っていたのだから絶対に迷惑をかけまいと、きっと心に決めていたに違いない。
それでも、心配した、という一言で打ち明けようと思ってくれたことが…自分の言葉で彼が素直になってくれたことが、サイファーにはこの上なく嬉しかった。

「素直に言えたじゃねぇか。」

ぎこちない褒め言葉と共に、少し強引に重ねた唇にはちゃんと伝わっただろうか。
この嬉しさも、愛しさも…そして、最愛の人の一番近くに居られるこの幸せを。






8月22日 23:59 B.ガーデン 男子寮

とある一室にて、二つの影が重なった。
最愛の人の誕生日まで、あと─────










【後書き】

スコールさん、お誕生日おめでとう!(3日遅れ)
そして、続かないよ☆←

本当はサイファーさん、スコールさんの誕生日前日だからってろーまんてぃっくに決めようと色々画策してた筈なんですけどね。スコールさんのただならぬ様子に全部吹っ飛んだんですよ、きっと()

そして…何だか超展開だと思いました。まる。
あ、それいつものことだった…(震え声)
サイファーさんがただの良い奴だけど、多分このサイトのサイファーさんはそんな奴になります。大抵そう。
サイスコ揃ってお馬鹿か、暴走する奴。あと、良い奴…?

………。
混沌としてるけど、これがうちのサイスコです(震え声)

2015.08.26








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