災難の発端


7月31日 23:50 B.ガーデン 男子寮 とある一室にて






珍しくスコールは定時に仕事を切り上げて部屋に戻っていた。
魔女戦争後、しれっとガーデンに帰ってきたかと思えば、すぐに正SEEDとなり何故かスコールと同室ということになったサイファーは、今晩まで遠征任務で帰ってこない。

スコールが今日はぐっすり眠れると思った矢先に、それは起きた。








部屋の扉からコンコン、と軽いノックの音と共に聞こえてきたのは、何やら聞き覚えのある軽やかな声。


「こんばんはー!もしもーし?」


思い出す必要も無い、昼間にも聞いたばかりの…リノアの声だった。
どうしてこんな時間に、と不審に思うスコールとは裏腹に、扉の外からは『ねぇスコールってば〜!』と早くしろとばかりの拗ねた声音が響いている。

リノアが完全なプライベートでスコールの元へ訪れるときは、大抵面倒事が起こる。それ故、スコールはすんなりと扉を開けることが出来ないでいたのだ。
しかし、彼女を相手に寝たふりをしようなど、後々のことを鑑みるとそんなことが出来るはずもなく。結局のところ、面倒事でないようにと祈りながら扉を開けるしか選択肢はないのだった。


「今開ける。…もう遅いんだ、声のトーンは考えてくれ。」
「あ、ごめんね。でも、これくらい出さなかったら開けてくれなかったでしょ?」


扉を開け、声を顰めながら注意する。が、笑みと共に返ってきた言葉は冷や汗ものだ。自分の心の内は見透かされていたらしい。

リノアとは、以前付き合ってはいたが今は違う。今は…奥手も奥手なスコールが一時も離れたくないと思う程、特別な人が他に居るのだ。とはいえ、その事実は公にはしていないし、親しい人物以外には知られていないことである。
スコールからすれば、女性を部屋に招き入れるところを他の生徒に見られようものならどんな噂をたてられるやら、と心配にもなる。出来ることならば、それくらいは察して欲しいところなのだが。
いやそもそも、夜も深まってきたこの時間に男子寮へと女一人で乗り込むなど普通はしない。
が、彼女に常識が通じないことは今に始まったことではないのだった。


「それで、こんな時間に何だ?」
「あのね、スコールもうすぐ誕生日だよね?プレゼントのリクエストとか無いかなって思って聞きに来たんだ。」


確かに、8月と言えばスコールの誕生月ではある。日数的にまだ先だというだけで。
実は以前、リノアから電話で欲しいものは無いのか、と誕生日云々を抜きにして聞かれたことがあったのだが…スコールは答えなかった。
…否、答えられなかったという方が相応しいかもしれない。



その時の質問はこうだった。
『ねぇ、スコールが一番欲しいものって何?物じゃなくてもいいの。本当に欲しいって思うもの、無いかな?』
スコールの心にはすぐに答えが浮かんだ…のだが、到底言えるようなものではなかったのだ。
『付き合い始めたばかりの恋人と過ごせる穏やかな時間』などと言おうものなら、困らせてしまうのだから。
元々物欲はそんなに強い方ではないスコールにも、ガンブレードやシルバーアクセサリにカードとそれなりに熱中するものはある。
ただ、あっても数は必要ないのだ。カードを除いては。



今思えば、サプライズ好きな彼女はあの時既にスコールの誕生日プレゼントのことを考えていたのだろう。
そうと分かっていたなら、あの質問の数日後に壊れてしまったピアスケースの替えを買わずにおけばよかった。そうすれば、新しいピアスケースが欲しいと無難に答えられたろうに。
あの時、適当にでも答えなかったツケがこんな形で回ってきたのかと思うと、やはり後悔せざるを得ない。その思考は勿論、変に噂をたてられたら…という憂いからのものだ。スコールも恋人には随分健気なものである。


「悪いが、答えられそうにないな。欲しい物は特に無いんだ、本当に。」
「ウソ!」
「………。」


目の前の彼女は満面の笑みだ。だが、此方を見つめるその双眸は確信を持っている。
スコールは何を言えばいいのかと思案するが、やはり答えられようもなかった。スコール自身は嘘など言ったつもりは無いのだから。あまりの予測出来ない返答にどう反応をしていいのかも分からないのだ。


「物じゃなくてもいいの。本当に心の底から欲しいもの、あるよね?それを教えてくれるだけでいいの、お願い。」


以前の質問と同じ言葉がもう一度。
それでも口を開かない、言うことの出来ないスコールにトドメの一言。


「大丈夫、困ったりしないから。ね?」


やはり、そう続ける彼女の双眸は確信を持っていた。スコールの本当に欲しいものはちゃんと有るのだと。
誤魔化しも出来ず、逃げ場もなく。観念してこのどうしようもない望みを言葉にするしかなかった。


「休み、だ。」
「それだけじゃないでしょ?」
「これが本心だ。」
「ウソだよ!1人の休みなんて面白くないじゃない!」


最早これは誘導尋問なのではないかと思わずには居られなかった。元より一人で居る方が落ち着く質の人間にその台詞は無いだろう、と思うのだ。
いざ言葉にしようと思うと酷い羞恥に襲われる。だが、スコールはそれを言うことを強いられていた。


「その…恋人と、ゆっくり過ごしたいんだ。」
「うんうん、よく出来ました!それじゃあ、ちょっと失礼!」
「っ!?」


やっと満足したらしく頷くと、まるで悪戯をする子供のようにスコールの周りをぐるりと一周するリノア。すぐさま目の前で人差し指を立て、それを二回上下させる。
スコールは何をされているのかよく分からなかったが、自身の周りに魔法を使用した時に見える光が現れたのを見て慌てる。


「これで準備完了!誕生日当日、楽しみにしててね〜」


言いたいことを言うと問い詰める間もなく一瞬のうちに去って行くリノア。まさに嵐のようだとスコールは思う。
そして、残されたスコールは自身にかけられたであろう魔法は何なのかと、誕生日当日には何が起こるのかと考えながら、答えの出ないその問いに溜息を漏らすのであった。

リノアはスコールの恋人を知らないのにどうするのかとか、そもそもスコールはその日はオフじゃないのにどうするのかとか…そんなことをツッコム人間はそこに居なかった。






8月1日 0:00 B.ガーデン 男子寮

とある一室にて、蒼い瞳が疲れた色を瞬かせていた。
トンデモ事件が起こるまで、あと22日。










【後書き】

お誕生日小話『災難な前日』の前に起こったお話。
相変わらずリノアちゃん強いです。

え、なんでこれがあるかって?
勿論誕生日当日に更新出来る状態じゃなくて遅れたからですよ。そんな、そもそも先にこれが出来てたからとかそんなんじゃ(((殴
いやだって、全然サイスコしてない…スコール+リノア状態なんですもん…(震え声)

2015.08.26









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