噛み合わない







「あー…刺激が足りねぇ…。」


完全に日が暮れてから帰宅したサイファーがぼやく。
今日も高レベルの任務でモンスターとドンパチやっていた筈の男の台詞とは思えぬ内容に、思わず言葉を返す。


「…あっさり掌を返すんだな。」
「あ?何がだよ?」


身に覚えがないとばかりにスコールを睨みつけるサイファーは不機嫌そのものだ。
そんな様子に怯むことなく顔色一つ変えずに言い返すスコールもまた、不機嫌そのもの。


「前に、戦場には刺激が溢れかえっていると言っていた。今の任務じゃ自分には刺激が足りないから最前線に立てる任務を回せ…とまでな。」
(高ランクの任務ばかりやってるくせに。)
「そういや、そんなこと言ったな。」
「あんたがうるさいから、今回の任務はあんたの所に回されたんじゃないか。」
(本当は俺が行く筈だったのに。)


当のスコールも実のところは刺激が足りずに退屈をしていた。
学園長夫妻がガーデンに戻ってからというもの、緊急時の役職たる指揮官の仕事は無い。
が、しかし。世間がスコールのことを“魔女を倒したSEED”として英雄視しているせいか、意見を聞きたいのだと各国のお偉い方が集まるような会議には必ずと言っていいほど出席させられている。
合間を縫って任務をこなしているものの、短時間で済ませられるのはランクの低い任務ばかり。もう1ヶ月近く高ランクの任務に出ることが出来ていないのが現状だ。

任務に出られない日は、訓練施設のモンスターとの戦闘で適度に身体を動かしつつ鬱憤を晴らしてはいるが、毎回同じ内容のモンスターとばかりでは戦闘の内容的に満足出来るはずもなく…結局のところはスコールも刺激が足りないと感じていたのだ。


「何でお前にそんな言われ方しなきゃいけねぇんだよ。」
「…別に。」


自分の任務を取られて腹を立てているなんて、玩具を取られて拗ねている子供と同じだ。スコール自身も分かっているからこそ、それを隠そうといつもの口癖で話を終わらせようとする。


「まさか、アレお前の任務だったのか?」
「………。」


こういうとき、この男には敵わないとスコールは思う。
人と関わらぬようにしてきた自分と違い、サイファーは人の心の動きに聡い。
いつも見透かされる。それだけでなく、理由までピッタリ当ててくるのだ。
スコールは素直に頷くことも出来ず、ましてや否定することも出来ずに目を逸らす。


「お前な、そういう時は譲んじゃねぇよ。」
「別に譲ってなんか…。」
「とにかく、お前も退屈してんだから自分に回された任務くらいはやっとけよな。」


退屈していることまで見透かされていることに驚く。少し悔しい気もするが、既に知られているならもう隠す必要も無い。
これはこれで好都合だ。


(それなら、今回の任務に行けなかった分の埋め合わせをしてもらうからな。)
「…手合わせするぞ。」
「んだよ?いきなり。」
「退屈なんだ。あんたも刺激が足りないんだろう?悪い話じゃないと思うが。」
(俺じゃあ刺激にならない、なんて言わせない。)

途端にサイファーの顔が驚愕に彩られる。直後───。

「ふっ、はははっ…ははははは!」


急に腹を抱えて笑い出すサイファーに、スコールは首を傾げることしか出来なかった。
実に愉快だと言わんばかりの笑いよう。何かおかしいことでも言っただろうか。いや、自分の発言にそんな節は全く見当たらない。
この男が何故笑っているのか、少しも理解出来る気がしない。


「何がおかしい。」
「いや、何つーかよ…っくく。」
「………。」
「んな怖い顔すんなって。」
「…そのニヤけた面をこっちへ向けるな。」
「眉間の皺すげぇぞ、お前。」
「もう一度聞く、何がそんなにおかしい。」
「安心しろ、お前を笑ってんじゃねぇよ。」


今度は真面目な顔で真っ直ぐ此方を見据える。真実なのだろう。本気の顔だ。
笑いの原因が自分でない、それはいい。
それならば何が原因だったというのか。謎はさらに深まってしまった。


(よくわからない奴だ…。)
「ワケわかんねぇって顔だな。」
「からかってるのか?」
「ちげぇって!俺は自分がおかしくて笑ったんだ。」
「………。」


もっとワケがわからない。
自分で自分を笑うとは一体どういう状況なのだろうか。彼の笑いはおかしくて堪らないというもののように感じた。自棄や自嘲などの笑いというものならば、理解出来なくもないのだが。
此方の心境を察してか、サイファーが続ける。


「お前と戦うって決まったってだけで、イラついてたのがスッと引いた。んで、全身の血が滾るみてぇに熱くなってきた。」
「まだ戦ってもいないのに、か?」
「そういうこった。」


澄ました顔でさも当然のように頷くサイファーの様子を見て、スコールの眉間に先程よりも深い皺がよる。
戦うことに胸を高鳴らせることは勿論ある。だが、スコールにとってそれは戦場に立って感じるものであって、こんな立ち話をしている時には決して起こりえないことだった。例えそれがこれから戦うという内容であってもだ。


「あんた、おかしい。」
「かもな。」


いつもなら売り言葉に買い言葉で進んでいく会話が、今日は違った。
穏やかな表情で頷くこの男を、スコールは知らない。今までに一度も見たことのない、サイファーの表情。
違和感を感じ、急に居心地が悪くなる。そこから感じるのは不信や恐怖などではなく…不安。


「ずっと探し求めてたモンがよ、こんなに近くにあったっつーのに…気付いてなかったんだ。」


その言葉を聞いて、笑っていた理由は理解出来たような気がした。
サイファーは大事な何かを探していて、必死になってあちこちを探していたのに案外近くにあって拍子抜けした…気づかない自分が不思議だった。きっとそんなところだろう、と結論付ける。

疑問が解決出来たところで、スコールはふと思う。
サイファーは手合わせをしろと言ってから笑いだした。探し物が見つかったから笑ったはずなのだ。だとすれば探し物は何だったのだろうか。
…と、そこまで考えてから我にかえる。このまま駄弁っていては手合わせの時間が取れなくなってしまう。何より、自分の欲求は満たされていない。
そんなスコールを知ってか知らずか、サイファーはさらに続ける。


「いや、違うか。すぐ近くにあったソレの代わりになるものを探し回ってただけなのかもしれねぇな。」
「その探し物はもう見つかったんだろう?それならそれでいいじゃないか。」
(俺は早く手合わせがしたい。)
「ったく、わかってねぇなぁ。」


スコールはその言葉に言い返そうとしたが、出来なかった。
サイファーは何故かいつになく真剣な顔で、優しい眼差しで、スコールを射抜く。
その表情は、姿は…美しかった。見蕩れる程に。
一瞬、呼吸が止まる。まるで永遠のような…一瞬だった。






「探してたのは、お前だ。」






衝撃。
逞しく美しい、今の彼にはそんな形容が似合うかもしれないだなんて頭の隅で考えている側、言葉の意味をよく理解出来てはいない。
ただひとつ、完璧な無表情を作り出しておくことを忘れていなかったことだけは救いかもしれない。


「俺が求めてたのは刺激だ。俺様は退屈が大ッ嫌いでよ。」
「………それは、知ってる。」


脳内でサイファーの言葉を繰り返し、噛み砕いてからようやっと理解する。そこから、一言ずつ噛み締めるように言葉を返す。
こうして冷静になれば、大した事は言っていないことくらい分かる。先程の雰囲気に呑まれただけだと気付いて、また悔しくなった。


「お前はいい刺激になる。それだけじゃねぇ、俺を満足させられるのはお前だけだ。」
「…それも知ってる。」
(何を今更。あんたの実力を考えれば、俺以外のライバルなんてそうそう居るわけないだろ。)
「へぇ…?そうか…。」


それっきり動こうとも喋ろうともせずに考え込むサイファーに、スコールは催促すべく口を開こうと息を吸う。しかし、先に口を開いたのはサイファーだった。


「知ってんならよ。お前、俺と付き合え。」
(は?付き合えも何も、さっき手合わせするぞと言ったじゃないか。)


あまりにも噛み合っていないやりとりに、スコールは困惑する。何を今更と思う反面、何か得体の知れない話が出てきたのかとも思う。
意図の掴めない相手の発言に対して不用意に言葉を返すことなど危険以外の何でもない。普段のスコールならよく考え、最善の対応を選ぶのだが、今のスコールにはその余裕がなかった。


「付き合う。だから早くしろ。明日も早いんだ、手合わせの時間が減る。」


スコールは一向に落ち着かず、訓練施設へ行こうと足を進める。この居心地の悪さを、いつもと違う不安を…感じたくなかったのかもしれない。


「おい待て。まだ話は終わってねぇんだよ。」


言葉と共に後ろから左腕を掴まれてしまう。
今度こそ何か言ってやろうと振り向くも、それはまたもサイファーの言葉によって叶わなかった。


「確認だ。二言は無いよな?」
「だから、さっきからそう言っている。」
「後から嫌だなんて言っても───」
「しつこい。付き合うって言ってるだろ!」


真意のわからないサイファーの言動にイラついたというよりは、不安に駆られたと言うべきか。らしくもなく声を荒らげてしまい、自分でも驚く。知られたくないその感情を隠すようにして静かな殺気を込めて睨みつける。
当の相手は口元に笑みを浮かべ、さも『俺様の勝ちだ。』と言わんばかり。
それを見た瞬間、スコールはどうやらよろしくない事態に陥ってしまったのだと直感した。背にじっとりと嫌な汗をかき始めたのは、この男がどれ程厄介であるかを知っているため。


「今更、撤回なんて言わねぇよなぁ?お前、自分の口で繰り返したもんな?」
「………。」


そう言われてしまえば、もう撤回は出来ない。どれだけまずい状況だと分かっていようとも『やっぱり今のナシ!』なんて言える筈もない。
ましてこの男を相手になど、自分のプライドが許さない。決して。

認めるのは癪だが…してやられた、のだと思う。ここで抵抗をしたところで、サイファーの良いように事が運ぶに決まっているのだ。
そうして、スコールは渋々諦めたのだった。



















その後、訓練施設での手合わせの最中に『付き合え』の意味を聞かされたスコールが、動揺のあまりに手合わせに集中出来ず負けたのは言うまでもない。

言葉の攻防戦も、戦闘の攻防戦にも惨敗したスコールは、その後もサイファーに振り回され続け…とうとう観念した、というのはまた別の話である。











【後書き】

終われ!←
最後の観念したっていうのは、正式に恋人同士になっちゃったとかそういう感じで書きたかったんですが、出来なかったです。文章力無いのがよく分かりますね(笑)
あ、別の話とか言ってますけど、この話は続かないです。多分(((

何というか、ちょっとキャラの雰囲気違い過ぎるかなって思うんですけど…。まぁ、うちのサイスコは二人ともお馬鹿なんでね、そこはあんまりこの話でも変わってませんね!

今回はサイファーさんに頭弱い感じのスコールさんを翻弄して、もらった…つもり、です。エエ(汗)
私の頭が弱いせいで2人は犠牲になりました(((殴

このお話はですね、2人は通じ合うものも多ければ、絶対に理解出来ないわっていうものも多いだろうなぁっていうイメージで出来たものです。
似てるけど、全然似てない…を目指したかったなぁ(遠い目)

2015.07.21







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