爪を切り損ねた。
そんな気配がした。
「どうした月子」
「え?…なんでもない」
目を逸らしながら手を後ろに隠す月子の様子は、明らかにおかしい。
「なんでもなくないだろ?」
さっきまで俺の隣でパチンパチンと爪を切っていたのに、その態度は明らかに。
「爪を切り損ねたんだろ?」
俺の言葉に目を潤ませる彼女。
「どうした?そんなに痛いのか?ほら見せて」
慌てる俺を見て、彼女は首を横に振る。
「違うの…痛いんじゃないの」
「じゃあどうしてそんな顔してるんだ」
俺はお前の泣いてる顔なんて見たくないんだ。
「だって、錫也は器用で料理とかなんでも出来るのに…っ、私は女なのにこんなに不器用で…」
それが嫌でたまらない、と泣く彼女を、俺は強く抱きしめた。
「馬鹿だなお前は…」
「っ…ひどい…」
「違うよ月子。お前には俺がいるだろ?お前は無理しなくていいんだよ。爪くらい俺がいつでも切ってやるから」
「…でも、そんなの…」
「ほら、見せてごらん?」
彼女はおずおずと手を俺の前に差し出す。
指先に少しだけ滲んだ赤い血を思わず舐めとりたい衝動に駆られたけれど。
「ちょっと待ってろよ」
俺は席を立った。

丁寧に消毒して、絆創膏を巻いてやる。
彼女の綺麗な指先が早く元に戻りますようにと願いながら。

俺だって、最初から器用だったわけじゃない。最初から料理が出来たわけじゃない。
ただ、お前に必要とされたくて、お前の役に立ちたくて、練習したんだ。
だから、お前にはもっと俺を頼って欲しい。
俺を必要として欲しい。

何も出来ないお前でいて欲しい。
そんな風に思ってしまう俺は、少し病んでいるのだろうか。
俺だけを見て、俺だけを頼って、俺だけを求めて欲しいんだ。
もっともっと、俺だけを…。



fin.
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