水嶋「まだ、時間ある?」
私「はい、大丈夫ですよ」
水嶋「じゃあ、公園を一周してから帰ろうか」
私「はい…」
水嶋「桜、綺麗だよね」
私「星月先生から聞いたんですけど、昔から星月先生とお花見したりしていたんですね」
水嶋「あぁ、こたにぃそんな事言ったんだ」
私「昔から仲が良かったんですね」
水嶋「そうだね、こたにぃは僕達の面倒をいつも見ていてくれたからね」
私「そうなんですか。僕達って、陽日先生と水嶋先生の事ですか?」
水嶋「知りたい?」
私「あ、言いたくないならいいんです…」
水嶋「もう一人は、女の子だよ」
私「女の子…ですか。幼なじみの女の子って事ですか?」
水嶋「ふふっ、気になる?…内緒だよ?」
私「そうですか…」
水嶋「君も、幼なじみとは仲がいいよね」
私「はい、昔からずっと一緒ですから」
水嶋「ふーん…まぁ、どうでもいいけどね」
私「…あ」
急に手を繋がれて、ドキっとする。
水嶋「君が桜にさらわれる前に、僕がさらっちゃおうかな?」
私「もう、からかわないでください」
水嶋「冗談なのに、そんなに顔を赤くしちゃって、本当に君は可愛いね」
私「すぐそういう事言うんだから。水嶋先生は、遊び人なんですか?」
水嶋「遊び人、ねぇ…。僕より陽日先生の事を信じるの?」
私「そういうわけじゃ、ないですけど…」
水嶋「じゃあ、僕と付き合って、僕が遊び人かどうか試してみる?」
私「えっ…、冗談、ですよね…?」
水嶋「ふふっ、冗談に決まってるでしょ?僕は君みたいな子供には興味ないからね」
興味ないからね…、その言葉が、胸に刺さる。
私「もうっ、子供扱いしないでください」
水嶋「子供扱いされたくないんだ?じゃあ…」
急に手首を握られ、引き寄せられる。
私「っ…」
すぐ目の前に、水嶋先生の顔がある。
水嶋「分かるよね…?」
私「…っ」
唇を、指でなぞられる。
水嶋「僕と、キス…したい?」
綺麗な瞳に見つめられて…
私「…そんな、こと」
…心臓が止まりそう。
水嶋「ふふっ、しないよ。どうせ君はファーストキスもまだなんでしょ?そんな責任、僕には取れないからね」
笑いながら、水嶋先生は私から離れる。
私「やっぱり、子供扱いするんですね」
水嶋「だって、君はお子様だから。僕はお子様には興味ないって言ったでしょ?」
私「どういう人なら、興味あるんですか?彼女とか、いるんですか?」
水嶋「そんなに僕の事、知りたいの?どうして?」
私「どうしてって…」
水嶋「もしかして、僕の事、好きになっちゃった?」
その言葉に心臓が跳ねる…。
私は、自分でもどうしようもないくらい…。
私「水嶋先生…」
…あなたが好きなんです。
水嶋「何?っ…ん」
私「…っ…ぁ」
私は、自ら水嶋先生の唇に、自分の唇を重ねた。
生まれて初めての、キスをした。
時間が止まったみたいだった。
柔らかい水嶋先生の唇を感じて、少しだけ、泣きそうになった。
一瞬だけ触れ合っただけのキス。
離れてしまった唇が名残惜しい。
私「…もう、子供じゃないんです。女として、見てください」
水嶋「女としてって…」
私「ダメ、ですか?」
水嶋「困ったなぁ。…ちょっと、そこのベンチに座ろうか」
私「はい…」

二人で並んでベンチに座る。
見上げると、満開の桜。
水嶋「…僕は、女なんて嫌いなんだ。甘い言葉を囁けばすぐに落ちる。君だってそうだ。君は僕の事を何も知らない。君は幻想を見てるだけなんだよ」
私「そんな事、ないです」
水嶋「そんな事あるんだよ。僕は色々な女の子と適当に遊んでるけど、本当に人を好きになんてなれないんだ。恋愛なんて所詮ゲームなんだよ」
私「…恋愛は、ゲームなんかじゃありません」
水嶋「君はまだ子供なんだよ。恋愛なんて無意味な事、僕は興味なんてないんだ」
私「私は、子供じゃありません。この気持ちは本物なんです。本当に水嶋先生が好きです!恋愛が意味のある事だって、私が教えてあげます!」
水嶋「ふーん…君が、ねぇ…。君のファーストキスの相手が僕だからって、僕は責任は取らないよ?」
私「そんな事、求めてません!私が、好きでキスしたんだから…」
水嶋「そっか…。君は、強いよね…。僕は、怖いんだよ」
私「怖い…?」
水嶋「僕は、過去を引きずってばかりの弱い男なんだ。みんな僕を利用してばかりだ。利用価値がなくなった途端、僕のそばを離れていくんだよ…」
私「そんな…。私は、水嶋先生のそばにずっといます。離れたり、しませんから」
水嶋「みんな、みんな最初はそうやって言うんだよ!大好きだよ、離れないから…そんなお決まりの言葉、僕はもう聞き飽きたんだ!」
私「ごめんなさい。でも、私は、水嶋先生を利用してなんていませんよ?」
水嶋「それは、そうだね…。だいたい君は僕のどこを好きになったの?」
私「どこをって言われても、全部としか言えないですけど。…普段男子に冷たいのに、影で相談に乗ってあげてたり、お裁縫を手伝ってくれて、私より上手だったり、迷い猫にミルクあげたりして、猫を抱っこしてる時の優しそうな顔とか、色々、水嶋先生の事を見てるうちに、いつの間にか好きになっていて、もっともっと知りたい、水嶋先生の色々な顔を見たいって思うようになって…」
水嶋「そっか…」
私「だから、この気持ちはゲームなんかじゃありませんし、無意味なものでもありません。私にとって水嶋先生を好きっていう気持ちは、何より大切なんです」
水嶋「後悔…しない?」
私「後悔なんて、しませんよ」
水嶋「僕と付き合って、後悔しない?」
私「付き合っ…、え?」
水嶋「君、僕と付き合いたいんじゃないの?」
私「それは、そうですけど、…でも、水嶋先生は子供には興味がないって」
水嶋「女として見てって言ったのは、君でしょ?忘れたの?」
私「で、でも、そんな、急に…」
水嶋「君に、興味が湧いたんだよ」
私「そんな、興味が湧いたからって簡単に付き合うのはどうかと思います。…水嶋先生は、私の事、好きなんですか?」
水嶋「聞きたい?」
私「…はい」
水嶋「じゃあ、もう一度君からキスしてよ。さっきのキスじゃ物足りないな」
私「そんな…」
水嶋「ふふっ、冗談だよ」
私「んっ…」
水嶋「…っ」
さっき私がしたのと全然違う、深いキス。
私「っ…ぁ」
唇が離れても、水嶋先生の顔がすごく近くて、心臓の鼓動が止まらない。
水嶋「…後悔した?」
私は水嶋を真っ直ぐ見つめる。
私「…してませんし、これからもしませんよ」
水嶋「言ってくれるね。…大好きだよ」
私「っ…ん…」
水嶋先生は笑って、また唇を重ねた。

水嶋「帰ろうか」
私「はい…」
ベンチから立ち上がると、不意に後ろから水嶋先生に抱きしめられる。
私「きゃっ」
水嶋「後悔しても、知らないよ…」
吐息混じりの切ない声が、耳にかかり心臓が飛び跳ねそうになる。
私「しないって言ってるのに、信用ないんですね、私って」
水嶋「僕は疑い深いからね。きっと君はすぐに僕に幻滅するよ」
私「そんなの、まだ分からないじゃないですか」
水嶋「そうだね…」
ギュッと強く抱きしめる腕に力が込められる。
水嶋先生の手に、自分の手を重ねた。
私「私はずっと、水嶋先生を離しませんから」


私「水嶋先生も、お酒呑んだんですか?」
水嶋「少しね。心配しないでよ、僕は紳士だからね。酔って君を襲ったりはしないから」
私「紳士…ですか」
水嶋「あれ?襲われたかった?」
私「そ、そんな事ありませんっ!」
水嶋「そんなに間に受けないでよ。本当に、帰したくなくなる…」
私「…っ」
水嶋「でも、ちゃんと送って行くよ。ほら…」
二人で手を繋いで歩き出す。
満開の桜の中、横を歩く水嶋先生は綺麗過ぎて、全てが幻想なんじゃないかと思う。
でも、この気持ちも、この手のぬくもりも、本物だから…。
桜は儚く散っていくけど、この気持ちはいつまでも続いていくから。

私は繋いだ手に力を込めた。


fin.


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -