星月琥太郎ver.



日曜日なのに、私はまた星月先生に呼び出されて保健室の掃除をしてる。
全く、なんでこんなにすぐに汚しちゃうのかなぁ。
昨日も片付けたばかりなのに。
そりゃ私だって星月先生に会えるのは嬉しいけど、今日は星月先生はいない。
理事長室にいるのかな?
保険医と理事長の兼任になって、今までより忙しいんだろうな。

「よしっ、こんなものかな」
掃除を終えて、あとはシーツを取り替えるだけ。
するとガラガラ…とドアが開く。
「よぉ、いつも悪いな」
「あ、星月先生」
「…お前、何か顔色悪くないか?」
「別に大丈夫ですよ?星月先生こそ、仕事忙しいんですよね?ちゃんと休んでますか?」
「あぁ、俺は大丈夫だ。お前は俺の事より自分の心配をしなさい」
「星月先生は見えないところで頑張りすぎて体を壊すから、心配なんですよ」
「全く、お前は小姑みたいだな」
「なにそれ!もうっ、心配してあげませんからね」
「分かった分かった、悪かったよ。…なぁ、お茶入れてくれないか」
「いつものマズいお茶でいいなら入れますけど」「何をそんなに怒ってるんだ」
星月先生は楽しそうに笑ってる。

「はいどうぞ。いつものマズいお茶です」
まだ頬を膨らませてる私に、星月先生は苦笑してる。
「日曜日なのに悪いな。でもこうして俺が理事長と保険医を兼任出来てるのは、お前のお陰なんだぞ。本当にありがとな」
急に優しくお礼を言われて、私は照れてしまう。
本当に、この人には勝てないなと思う。
「あとは、シーツを替えるだけですから」
「そうか。じゃあ後は俺がやっておくから、お前は帰りなさい」
「え…」
なんで?せっかく一緒に居られるのに…。
「お前体調良くないんだろ?今日はもう帰って休みなさい」
星月先生はそんな私の気持ちを知っているかのように言う。
「大丈夫ですよ?だから私やります」
「ダメだ、顔が赤いぞ?熱があるんじゃないのか?」
顔を覗き込まれて、確かに私は顔が赤くなるのを感じた。
「ち、違いますよ!」
こんな近くで見られたら、恥ずかしくて赤くなるに決まってる。
星月先生は本当に女心が分かってないんだから。
私は、焦ってシーツを広げ、替えようとした途端…
「っ…」
めまいがして
「おい!?」
私は星月先生に抱きかかえられるように、ベッドに倒れ込んだ。

「大丈夫か…?」
私を見下ろす心配そうな顔。
ベッドで寝ている私。
やだな、本当に体調悪かったのかな。
「熱は、そんなに高くなさそうだな」
星月先生の手が私のおでこに触れる。
「星月先生の手…、冷たい」
「お前が熱があるからだよ」
「そうなのかな…」
「このまま少し寝なさい」
「私、やっぱり体調悪かったんですね…」
「お前は俺の事にはよく気付くくせに、自分の事だと鈍いよな」
「それはお互い様ですよ」
「まぁ、…そうかもな。ほら、もう寝なさい。手を繋いでてやるから」
「ありがとうございます…」
星月先生の手の温もりを感じて目を閉じると、すぐに意識が沈んでいった。

☆…☆…☆…☆…☆…☆


「琥太郎センセいる?」
「こたにぃー」
遠くから賑やかな声が聞こえて、私は目を覚ました。
「あいつらか…、悪いな、起こしちまったか?」
星月先生はまだ私の手を握っていてくれた。ずっと傍にいてくれたんだ…。
「お前、大丈夫か?まだボーっとしてるな」
「だ、大丈夫…」
ボーっとしてたのは星月に見とれてたから…なんて言えないよね。
「そうか、ちょっと待ってろよ」
「ん…」
星月先生は私に優しくキスをすると、カーテンを引いて出て行った。
私はまた顔が赤くなるのを感じた。


星月「全く、どうしたんだ」
向こうで声が聞こえる。
陽日「いやー、職員室で仕事してたら水嶋の姿が見えてさ」
水嶋「僕は、あの子にチョコを貰いに来たんだよ」
陽日先生と水嶋先生の声。
星月「チョコ?」
星月先生の声と、私の心の声が重なる。
チョコって何の話?
水嶋「今日はバレンタインだよ?だから、あの子にチョコを貰いに来たんだよ」
陽日「あ、あの子って…、まさかあいつじゃないだろうな!?」
水嶋「そのまさかだよ?うちの学園には女の子は一人しかいないでしょ?」
陽日「お、お前は何を考えてるんだ!?だいたいお前はもうこの学園の人間じゃないだろ!」
水嶋「陽日先生は冷たいなぁ。ねぇこたにぃ?」
いつもの水嶋先生の声に、陽日先生の慌てた声。
バレンタイン…!?
今日ってバレンタインだったんだ…。
どうしよう、私すっかり忘れてた。
星月「あいつは体調崩して今そこで寝てるよ。だからお前達にやるチョコなんてない。さぁ、早く帰った帰った」
陽日「あいつ体調悪いのか!?大丈夫なのか?」
水嶋「心配だねぇ。いつもこたにぃにこき使われてるからだよ」
星月「そうだな、俺が理事長になって、保健室の仕事を任せっきりだからな」
水嶋「こたにぃ…」
陽日「あいつは頑張り屋だからな。担任の俺がもっとしっかり見ていてやれば良かったんだ」
星月「いや、俺があいつに甘えてたのがいけないんだ。さぁ、お前らはもう帰れ」
水嶋「残念だなぁ、せっかくはるばるここまでチョコを貰いに来たんだよ?」
星月「お前ならチョコくらいいっぱい貰えるだろ」
水嶋「あーあ、俺はあの子からしか欲しくないのになぁ」
陽日「な、なんだよそれ!?お前まさか…」
水嶋「冗談ですよ陽日先生?僕をライバル視しないで下さい」
陽日「水嶋ぁ!お前はいっつも俺を見下しやがって!ちょっと背が高いからって…。くぅっ」
水嶋「そういうの被害妄想って言うんですよ?仕方ないじゃないですか。僕の背が高いのとカッコイイのは生まれつきなんですから」
陽日「俺はカッコイイだなんて言ってないぞ!」
水嶋「でも本当の事ですよ?」
星月「お前達、病人が寝てるんだぞ。いい加減にしないか。ほら、帰れ帰れ」
星月先生が二人を追い出す気配と、
水嶋「あぁっ、チョコっ、チョコ待ってるね!」
陽日「水嶋には負けないぞっ!俺は担任なんだからなっ!チョ、チョコくれよなっ…」
二人の声が響いた。


☆…☆…☆…☆…☆…☆


帰り道。
寮まで星月先生が送ってくれる。
外はもう暗くなっていて、空には綺麗な星が浮かんでる。
「今日…バレンタインだったんですね。私、何も用意してないです。ごめんなさい」
「あぁ、聞いてたのか。気にするな。俺だって忘れてた」
「今度、作りますね!」
「無理しなくていいんだぞ?お前は不器用なんだから」
「星月先生、それはひどいです!」
「悪かったよ。でも本当に、俺はお前が元気で笑っていてくれたら、それが一番幸せなんだ」
「……」
「だから、今日はゆっくり休んで明日にはまた元気な顔を見せてくれよ?」
「じゃあ、チョコはいらないんですか?」
「まぁ…、お前がどうしてもっていうなら貰ってやってもいいぞ?」
「ふふっ、分かりました」
「…寒くないか?」
「少しだけ。星月先生、手を繋いで欲しいです」
「仕方ないな、今日は特別だぞ?誰に見られるか分からないんだからな」
「ありがとうございます」
季節はまだまだ寒いけど、繋いだ手はあたたかくて、この温もりが永遠に続く事を願った。


えんど。
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