水嶋郁ver.




郁と付き合って、初めてのバレンタイン。

私は郁の家にいた。
郁の家に来るのは初めてで、どうしたらいいか分からなくて…。

「どうしたの?突っ立ってないで、ほら、おいで」
ポンポンと郁が座ってるソファーの隣を叩く。
「う、うん…。…きゃっ」
座ろうとすると、急に手を引かれて倒れ込む。
そのまま郁に抱き締められた。
「僕に会いたかった?」
耳元で聞こえる郁の声に顔をあげる。
「…っ」
「あれ?会いたかったんじゃないの?」
「そ、それはそうだけど。…郁も?」
「それはどうかな」
そっと唇が重なって、郁が楽しそうに笑う。
「冗談だよ。僕だって会いたかったよ」

郁は教育実習を終えて大学に戻り、二人で会うのは久しぶりだった。
しばらく抱き締めあってキスをして、いちゃいちゃしながら時を過ごす。
こういうの初めてだから、まだ慣れないけど、郁と一緒に居られる事が嬉しくて幸せで。
「あ、ねぇ郁。渡したいものがあるから、ちょっと待ってて」
近くに置いてあるバッグを取ろうとするけど、「きゃっ…」
腕を引っ張られて、私はまた郁と一緒にソファーに沈む。
「もう…郁?」
私は困った顔で郁を睨む。
「君が僕から離れようとするからだよ?」
またギュッと抱き締められた。
「君の居場所は、僕の腕の中だよ。いつも言ってるでしょ?」
郁は普段は意地悪な事を言ってきたりするのに、二人っきりになるとたまに甘えて来る。
自分より年上なのに、そんなところが可愛く思えて、郁の髪を撫でる。
「今日はバレンタインだから渡したいのに。いらないの?」
私が聞くと、
「しょうがないなぁ、そんなに僕に貰って欲しいの?」
ちょっと照れたみたいな顔をしてそんな事を言う郁。
「うん、貰って欲しいよ。だって、バレンタインに誰かにあげるの、初めてなんだから」
「…本当に?」
「そうだよ?初めて作ったんだからね」
「…君、料理できないんじゃなかったっけ?それ、ちゃんと食べられるの?」
「もうっひどいなぁ。それ誰から聞いたの?」
「陽日先生がクラスの子から聞いたって…」
「陽日先生ってばひどい!大丈夫だよ、ちゃんと錫也に教えて貰ったんだから」
「錫也…ねぇ。あの君の周りをうろちょろしてた子か。…ふーん」
「え?どうしたの?」
「…もしかして、二人っきりで作っただなんて言わないよね?」
「?…そうだけど、錫也は幼なじみだし…」
「君は可愛いんだから、そんな簡単に男と二人っきりになっちゃダメだよ」
「何言ってるの?錫也なら大丈夫だよ」
「だぁめ、君は大丈夫でも、あいつは大丈夫じゃないかもしれないし、何より僕は心配なんだよ?」
「郁、もしかしてヤキモチ焼いてるの?」
「ぼ、僕がヤキモチなんて焼くわけないでしょ?」
「ふふっ」
「あ、笑ったな。…君が相変わらず陽日先生やこたにぃに囲まれてるのかと思うと僕は心配が絶えないよ」
「そんな心配いらないのに」
「他にも幼なじみ君達や、生徒会の子達、弓道部の子達…」
「ちょっと郁!?ちゃんと私を見てるの?」
「僕はいつだって君を見てるよ?」
「そうかなぁ」
「っ!」
私は郁の眼鏡を取った。
「ふふっ、この眼鏡が悪いんじゃない?」
「ちょ、ちょっと…」
そのまま郁の眼鏡をかけてみる。
眼鏡をかける必要のない私がかけたら、視界が歪むのかなって思ってたのに。
「あれ…?これ度が…」
「だめだよ」
「あっ」
眼鏡を取られる。
「全く君って子は…お仕置きだよ」
「んっ…」
郁の眼鏡、度が入ってないのは、何か理由があるのか気になったけど、いつか郁が話してくれるまで待とうと思った。
眼鏡をかけてる郁も、かけていない郁も、郁は郁で、私の大好きな郁だから。

☆…☆…☆…☆…☆


「これだよ。はいどうぞ。私が初めて作ったトリュフだよ」
「ありがとう。君の初めてを、僕が貰うね?」
「っ…」
「ふふっ、君、何か別の事考えたんじゃないの?」
「べ、別に…考えてなんて、ないよ」
「君は本当に可愛いね。ねぇ、来年も再来年も、ずっとずっと、君のチョコは僕だけのものだからね?」


えんど。
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