花火大会、一緒に行こう、と、仲間内のラインで話が出てしまった。
 しかも、浴衣で。
 断るのは野暮だし、そのグループには幼馴染がいるものだから、持っていないとごまかすこともできない。元気で明るい、肯定的なスタンプの羅列の中で、行かない、とコメントするには、わたしの面の皮は薄すぎた。OK、と、お気に入りの絵文字を送信して、クローゼットを睨み付けた。





「え、なにそれ、どういうこと」


 スマホを握る手が、力の込めすぎでがくがく震える。電波を通じて届く、友人たちの楽し気な声に、わたしは「余計なお世話なんだけど!」と小声で叫ぶ。隣で似たような状況になっている、縁下くんも、スマホに向かって、低くひそめた声で怒鳴っていた。ふいに目が合って、あわてて逸らす。『だあって、見ててイライラすんだもん、いい加減くっつけよみたいな』『わかるー!』分からんわボゲ! ……怒るのも馬鹿馬鹿しくなって、いまだ続く笑い声を、無理やり途切れさせた。


「あの、縁下くん」
「ごっ、ごめんね俺の方も、あいつらがなんか、変なことしたみたいで」


 待ち合わせ場所に、ふたりで、置いてけぼりにされた。縁下くんは、バレー部のみんなに、わたしは、クラスの女の子たちに。学校とは違う、ラフな服装の縁下くんに、心臓が破裂しそうなほどうるさくなって、もう静かになったスマホを握りしめる。縁下くんがちらと腕時計を見て、わたしもつられて時間を確認して、あと数分で、花火が上がるのだと知る。


「……一緒に、見よっか」


 困ったように笑うのが、かっこよくて、わたしはもう、彼を直視できない。


 これは、もう、だめだ、とわたしは思うのだ。みんながはやし立てるような関係には、きっとなれない。だってこんなに、死にそうなほど、どきどきしてしまうのだ、身体がぜんぶかたくなって、指の一本さえも、自由に動かせなくなるほど。


「みょうじさん」


 空に散る、火のつぶの光をあびながら、縁下くんがわたしを振り向いた。バレー部のみんなが教えてくれたという穴場で、わたしたちは、となりあって座っている。奥のほうには川が見えて、ゆらゆらとかがやいている。



「なあに」
「俺、みょうじさんのこと」


 ベタだな、と思ったけど、その先の言葉は、どん、と鈍い音にかきけされた。それでも、くちびるの動きで、何を言ったのか、分かってしまう。だめだ、わたしはきっと、このひとのことが好きで好きでしょうがないから、一緒になってはいけない、わたしはきっと、だめになる。わたしはわたしのままではいられなくなる。そう、思うのに、この胸に湧き上がる、わたあめのような、淡くしあわせな感覚は、いったい何だ。
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