ふたりの間にある微妙な距離感が、心の距離をあらわしているようで、心苦しくなった。手をのばせば届くけど、体温は感じない、くらいの距離。


 影山くんに告白されたのはちょうど一週間前と三日前のことだ。そこに至るには当然好きになってしまうような過程があったわけで、それは影山だけじゃなくて、わたしもそうだった。バレーのことしか考えてないような頭にわたしのスペースがあったことがうれしくて、ふたつへんじ、ほど勢いはよくないものの、喜んで首を縦に振った。はずだった。
 有り体にいえば、わたしも影山も恋愛に関してはズブの素人だったのだ。影山は今までバレーしか見ていなかった。わたしも今までピアノしか見ていなかった。自分の好きなことしかしてこなかったわたしたちは、初めてできた「恋人」という存在に、いったいどういう風に接していいのか、まったくわからなかった。傍で見ている友人たちはかわいいやつらだと笑うけど、わたしたちにとってこのことは、笑い飛ばせるほど軽い問題ではなかった。




 とはいえ何もしないわけにもいかず、あの日から一週間、わたしたちは平日、毎日一緒に帰っている。黙ったまんま、並んで歩いて、たまにいたたまれなくなったわたしが話を振って、影山がぎこちなく相槌をうつ。すごく気まずいし、緊張感が半端じゃないし、一日の終わりにどうしてこんな修行のようなことをするかって、影山のことが好きでしょうがないからだ。


「か、げやま」


 それでも、ちょっとでも、今よりもっとひっつきたいと思うのは、わたしのわがままだろうか。影山と過ごせるなら何でもいい、と思ってる、それは今も変わらない。でも影山はわたしの彼氏で、わたしは影山の彼女だ。ちょっとぐらい、わがまましたって、いいんじゃないか、って、無理やり自分を奮い立たせる。


「っお前」


 大きい、バレーばっかりしてきた手に、ピアノしかしてこなかった手を、そっと絡める。びく、と跳ねる、隣の大きなからだ。いやだったかな、手汗やばいかもしんない、なんて内心ひやひやしながらも、手をはなす気はさらさらない。ようやく感じられたこの体温を、やすやす手放すわけにはいかない。女の子として、彼女として、影山のことをだいすきな、みょうじなまえとして。


「バカ野郎こういうのは男からさせろよっ」


 ぎゅうう、けっこう容赦なく握られた右手が痛くて、思い切り握り返した。敵うはずもないなんてわかりきってる、むしろ、男の子なんだなって感じて、どきどきするぐらい。痛くてどきどきするなんてわたしおかしいかもしれない。でも恋してるんだからおかしくて普通なのかもしれない。よくわからない、けれど。


「どーせゴツい手だからね、ふんだ」
「んなことねェだろ」
「え」
「ホラ」


 そっと、手を重ねあわされて、わりとすっぽり包まれそうなほど大きさのてのひらとか、わたしのよりも太い、骨っぽい手首とか、わたしもそこそこ長いつもりだけど、それよりも長い、節くれだった指とか、はっきりと違いがわかってしまって、どうしようもない。顔があつい。でもやっぱり、はなれたくない。ここまできてしまったら、もう何をしたって変わらないんじゃないか、って、どこか気だおおきくなってしまって、それにわたしは欲張りだから、もうだめだった。手をとって、腕をとって、からだをひっつける。またあからさまにびくつく影山がおかしくて、笑ってしまった。


「お前、さあ、ほんと」
「なに」
「……なんでもねえ」


 不機嫌そうな声をつくって出しているくせに、はなれようとしないんだから、うれしくてうれしくて、さらにぎゅうとひっつく。それぐらいじゃよろめかない影山はスポーツをやってる男の子で、強くて、どきどきする。このままわたしはきっと、もっともっと影山のことを好きになってしまうんだろう。こんなに、甘やかで、しあわせで、あたたかな地獄があるなんて!

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