ツッキーに彼女ができた。めでたい。しかもそれは、ずっと気になっていたらしい、みょうじさんだという。さらにめでたい。ふたりでケーキバイキングに行ったりしたと聞いたから、脈アリどころかふつうに両片思いだと思っていたので、驚きはしないけど、うん、やっぱり、めでたい。自分のことみたいにうれしい。ゆるむ頬を隠し損ねて、ツッキーに「何ニヤついてんの」と呆れたように言われてしまった。でも俺は知っている、そんなツッキーが、ちょっとだけ丸くなったということ。


「月島、今度の土曜買い物付き合って」
「みょうじがどうしてもって言うなら」
「はあ? アンタほんとにかわいくないよね。ひねくれてる」


 吐き捨てるように言ったあとで、小さな声で「アンタじゃないと頼まないっつの」とくちびるをとがらせたみょうじさんに、ツッキーがかすかに目を細める。こんな顔、みょうじさんにしかしないよ。俺になんて、絶対しない。してたらちょっと、アヤシイ関係だよ。


「素直になればいいのに」
「すごいブーメランだよね、わたしがコレで影山くん誘ったらすっごく怒るくせに」


 なんとも面倒な捨て台詞だった。踵を返して走り去るみょうじさんは、この状態のツッキーと一緒に取り残される俺のことを果たして考えているのか。いないだろうな。このふたりはなんやかんや言って、結局おたがいのことしか見えてない。


***


「山口くん、ちょっと」


 昼休み、呼ばれて、俺は冷や汗をかいた。隣のツッキーから感じる殺気がすごい。いくら俺でも耐えられないことってあるよ、でもここで断ったらそれはそれでツッキーの機嫌を損ねるだろう。ちいさな手でこいこいしているみょうじさんと、ツッキーを、交互に見る。


「さっさと行って来れば」


 ツッキーはみょうじさんに目もくれない。みょうじさんはそれにむっとしている。素直になればいいのに、と思うけど、そうもいかないからこのふたりは一緒にいるんだろうな、とも思う。理屈は知らない。なんとなく、だ。ごめんツッキー、と小声で言い残して、席を立った。


「どうしたのみょうじさん」
「なんなのあいつほんとに」


 それはお互い様なんじゃないかな、とは口が裂けても言えない。ツッキーは涼し気な顔でヘッドホンを耳に当てて、目を閉じている。きっと、俺とみょうじさんのことを、死ぬほど気にしながら。


「あ、違う違う、あのさ、これ月島に渡してほしくって」


 みょうじさんが俺に差し出したのは、ジャージだった。バレー部の、黒いやつ。え、なんで、と思わず素で返したら、みょうじさんは「で、できるわけないでしょさっきあんな態度取っちゃったのに」と早口でまくしたてた。その顔、ツッキーに見せてあげればいいのにな、と思って、思ったらもう行動に移した方が早いような気がして、みょうじさんの背中を押した。


「わ、ちょ、ちょっと山口くんっ」
「直接返しなよ、その方がツッキーも喜ぶよ」


 もしかしたらこうしてみょうじさんに触れたことで、ツッキーはすごく怒るかもしれない。それでも、放っておくよりは全然いい。ツッキーがぎょっとした顔で俺たちを見て、みょうじさんは小さく抵抗したけど、俺は気にせず足を進める。


「何してんの」
「べ、別になんにも」
「みょうじさんツッキーに言いたいことがあるんだって!」


 目をまんまるく見開いて俺を振り返るみょうじさん。知らないふりしてそのまま軽く、肩を押す。俺は、みょうじさんがたたらを踏んだのと同時に、ダッシュで教室を出た。呼び止める声も無視、周りのひとの視線も、無視。
 ふたりとも、もっと仲良くなってほしい、喧嘩も必要だろうけど、ふたりでしあわせになってほしい。まっすぐになりきれないツッキーをみょうじさんに知ってほしい、それを受け入れて、ふたりの仲が、学年が上がっても、高校を卒業しても、もっと言えば、大人になっても続いてほしい。よけいなお世話だって言われればそれまでだけど、ふたりはとっても、お似合いに見えるのだ。


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