|
彼が赤点を回避できたのは、悲しいかな、英語だけであった。化学と古典、けっこう一生懸命教えたつもりだったんだけどなあ。
「アレに理解できると思ったの? お前こそバカなんじゃないの」
「うるさいなあ」
蛍くんに愚痴ったが慰めはもらえなかった。分かってたけどねこの幼馴染に相談なんて持ちかけても丸く収まらないことくらい。せっかく蛍くんのクラスまで出向いたというのに、つれない奴だ。蛍くんの隣で山口がきょとんとした顔をしていた。
「みょうじさん、影山と仲いいの」
「よくないよ。テスト、助け求められて」
「へええええ。意外な組み合わせ」
だから仲良くないって言ってるのにこいつ聞いちゃいねえ。ため息のあとで紙パックの野菜ジュースのストローに口をつけた。
「みょうじ、ノート貸してくれ」
ドアがスパンと開いて、影山が堂々と言い放った。物を借りる人間の態度ではない。ないのに、しょうがないなあと腰を浮かせてしまうのはなぜだろう。
「月島と仲いいのか」
「幼馴染です。じゃあね、蛍くん、山口」
入り口で仁王立ちで待っている影山のところへ歩く。蛍くんはゆるめに、山口は元気よく手を振ってくれた。影山が目を見張る。蛍くんのバイバイがどうやら相当珍しいらしい。