会議を終えて、職員室に向かった。明日から夏休みに入るということで、生徒に行う生活指導のプリントの内容を確認したり、部活を受け持つ先生方へ注意喚起を行ったり。生徒は楽しげだが俺たちはそうもいかない、補講や受験生のための講座があったり、先に言ったような生徒を守るためのあれやこれの準備をしたり、仕事が増える。そんな中でも意気込んでいる、サッカー部やバスケ部や吹奏楽部の顧問の先生方は俺よりも若いんじゃないかというほど、いきいきしていた。俺としてはバレー部が気になる。残念ながら、この高校の体育科にはバレー経験者がいて、俺が着任したときには既に顧問も副顧問も埋まっていた。まあ、それは別として、俺は俺の仕事に専念するけど。配られた補講の予定表を見ながら、何をしようかと授業内容を頭に浮かべる。


「あ」


 廊下を小走りに行くみょうじが、俺を見て、その足を止めた。手に持っている荷物からして、おそらく部活で使う道具の、運搬か何かをしているのだろう。少し距離はあるが、会話が難しくなるほどではない。俺も立ち止まって、「こんにちは」と声をかける。


「あの、この前教えていただいたとこ、模試でできました!」


 力んで大声になるみょうじに、まごつきながらも、「そうか。みょうじはがんばるからなあ、結果にも出るさ」と返す。みょうじは、荷物を持つ手に力を込めて、ごくりと唾を呑んだ。


「また、お邪魔しても、いいですか。部活引退したら、もっと、たぶん、たくさん来ます、いいですか」


 勢いに押されながらも、「もちろん。いつでもおいで」と返す。みょうじは安心したように笑って、会釈をすると、元気よく駆けて行った。あんなに重そうなものを持って、それでも走れるなんて、見た目によらず腕力はあるらしい。


「先生、最近、みょうじに懐かれてますね」


 横から軽く小突かれて、「そ、そんなことは」とどもる。どうしてこんなに焦るのか、自分でも分からない。なにか、ばれてはいけないものが見つかったような気持ちだ。俺の隣で腕を組んでいるのは、向かいの席の、数学の先生だ。涼しげな顔立ちは男の俺から見ても整っていて、みょうじのクラスでも話題に上っていた、ような。


「いやあ、分かりますよ。ああいう優等生には、救われますよね」
「そう、ですね」
「俺もね、数学なんてヤダとかなんでこんなのやんなきゃいけないんだとか。よくもまあそれを教師に言うよなってことを、面と向かって言われたりするんですよ。だから、みょうじのような、真面目な生徒を見ると、元気が出るっていうか」


 席に戻るまでその話は続いた。分かります、とうなずきながら、俺はずっと、悩んでいた。その通りなのだ、確かに。古典を真面目にやる生徒なんて少ない、だからみょうじのように、まっすぐに学ぼうとする生徒には、救われる。救われているのだ、でも、なんだ、この感じは。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -