夏休みに向けて、校内の活気が上がっている。廊下を歩いていても感じる、どことなく落ち着かない雰囲気は、生徒によるものだけではないはずだ。


「今年こそは全国に行きたいなあ」


 講堂に向かう途中で一緒になり、エレベーターの中で、例の吹奏楽部の先生がそうぼやいた。中年と呼ぶには若々しさにあふれる、生徒にも人気のある先生だ。


「そろそろ地区予選の時期ですか」
「そうなんだよ。こっちは強豪がなあ、多いからなあ」


 やっぱり私立は強いよなあ、持ってる金が違うもんなあ、と、話す内容は下世話なのに、そう思わせない爽やかさがある。エレベーターが着くなり、「ま、頑張りますよ。応援、お願いしますね」とにっと笑った。


「あっ、先生!」


 階段を上がってきた、女子生徒の集団と鉢合わせる。その中にみょうじがいた。隣の先生は「おう、おはよう」と鷹揚に、片手をあげて答える。俺も続けて、「おはよう」とあいさつをした。黄色い声のおはようございますに囲まれて、少し戸惑ってしまう。教員生活ももう長いのに、いまだにこれには慣れない。


「超意外な組み合わせですね」
「仲良いんですか?」
「イガメンじゃん、イガメン」


 きゃっきゃと笑い合いながら、講堂へと歩を進める、セーラー服の集団。遅れてそのあとについてく。膝の裏が見えて、そこそこきわどい丈の子もいて、注意をしようと口を開いた。が、みょうじが振り返って俺を見たから、思わずその口をつぐんだ。


「どうか、」


 したの、と言おうとした。けど、「お前それ丈ダメだな、引っかかるぞ」という音楽の先生の威厳のある声に、かき消された。びくりと肩を強張らせる生徒、気まずそうに目をそらす生徒、悪びれもせず、「えー脚伸びたのかなー」なんて言う張本人。みょうじはその騒ぎの中で、何事もなかったかのように、視線をふいと前に戻した。「今なら見なかったことにしてやるからさっさと直せ」「はーい」「よーしいい子だ」すぐそばでなされるやり取りが頭に入らないまま、講堂に入っていくみょうじの後姿を見つめた。


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