白い肌とか、真っ赤になった頬とか、ぬるり、と熱い感触とか、涙を浮かべて、とろんとした目とか、極め付けは、あの声だ。濡れた声。


『ち、ちから、くん』
『あうっ、あ、あ、あっ』
『だめ、それ、だめえ……』


 体に熱がぶり返すのがわかる。日中、授業とか部活とか、別のことに集中しているうちは大丈夫なのに、こうして、部屋にひとりになると、もうだめだった。今までになまえを、そういうことの、なんだ、ゲスい言い方しか思いつかないけど、その、……オカズに、したことがない、って言うと、嘘になる。それでも、一度、ホンモノを知ってしまって、より、頭にむすばれる像が、生々しくなって。熱とか、声とか、音とか、においとか。もうだめだごめんなさい。脚の付け根のところに、手をのばす。


***


「ちからくーん」


 気のぬけた声が俺を呼んで、「帰り、クレープいきたいー」とごねた。成田が菓子パンの袋を開ける手を止めて、なまあたたかいまなざしで俺たちを見る。


「いいねえ」
「何がだよ」
「いやあ、青春だなーって」


 保護者みたいな顔やめろよ、と言いたくなったが、青春、という点について何も言い返せないので黙った。かわいい彼女と制服デート、しかもおねだりされてクレープなんて、ベタすぎて俺もびっくりだ。


「ねーえーいーきーたーいー。成田くんからもお願いしますよー」
「だってよ縁下」
「でも帰り遅くなるだろ」
「クーポン今日までなのー」


 ねえー、と、甘えたような声をして、俺の右手に、指をからめてくる。とたんに、いろんな記憶がフラッシュバックして、その手を振り払ってしまった。


「……ちからくん?」


 きょとんと俺を見上げるなまえは、傷付くとか悲しむとかの前に、驚きが大きいようで、その手を中途半端なところでふよふよと動かしている。あのときの光景と、ちょうど夕べのことと、ごっちゃになって、混乱してしまった。取り繕うように、なまえの右手を左手でつかむ。


「こっちに、して」
「どうしたの? ケガ?」
「いや、うーんと」


 心配そうに俺の顔を覗き込むなまえに、もやもやと罪悪感がつのる。それまで目を丸くしていた成田が、納得したような表情で頷いた。納得されたくなかった。


「成田くん何か知ってる? ちからくん突き指とかした?」
「いやあ、ははは、男の子だからねえ」
「そっかー。あんまり危ないことしないでね、部活に障ったらたいへんだよ」


 いや日常生活に障ってるんだけど、っていうか成田さりげなくばらすな。細い指が俺の指をにぎる。


「ちからくんクレープ」
「まだ引きずってたんだ」
「行こうよー」
「いいけどさあ」


 やったーとつないだままの手を振り上げて喜ぶなまえに、まあいっか、と思う自分がいる。多少遅くなっても、どうせ家までは送るし、事前に連絡すれば、なまえの両親からもお咎めはないだろう。ここまで流されやすい性格だっただろうか、とは思ったが、こんなに嬉しそうにしてくれるなら、いいんじゃないか、という気がしてくる。


「縁下もウブだね」
「うるさいな、お前もかわいい彼女ができたら分かるよ」
「うっわむかつく」
「やだもうちからくん、照れるー!」
「いって!」


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