彼氏ができた女の子は、とたんに話題の中心になる。どのように過ごしているのか、デートはどこへ行ったのか、何をしたのか、などなどなど。その「彼氏」が人気者だったりしたら、もっとたいへんだ。普段とのギャップや、ひどいときなんて、言葉のひとつをとっては大騒ぎされる。わたしもまた、別にベクトルで大騒ぎをされているんだけれども。


「縁下くんの草食感すごすぎでしょ」
「わかる、超優しそうだけど、グイグイは来ないよね絶対」
「どうなのなまえ」


 嫌な気持ちはしない。手をつないできたのも、キスをしてきたのも、縁下くんからだということ、知っているのはわたしだけ。にまにまと緩む頬を両手でおさえて、「やだあ、言いたくないですー」とわざとらしくごまかせば、騒ぐ声はわっとふくらむ。なにそれ、もしかしてもう食べられちゃった系ですか、うっそだあ縁下くんそんなんするの、いやでもロールキャベツ系かもしんないし。きゃあきゃあと、黄色くてまばゆい声の中で、真実を知っているのは、わたしだけ。


「食べられてはいません。わたしたち、清く正しいから」
「ってことはキスはしたの!」


 ひとりの子が、胸倉を掴まんばかりの勢いで身を乗り出してくる。取り調べを受けている犯人ってきっと、こんな気持ちなんだろうな。そろそろどうにかして話題をそらしたいな、と思ったちょうどそのとき、「みょうじさん」と、聞きなれた声がした。


「あっなまえのダーリン」
「ダーリンってなに! じゃあね、行ってくる」
「はーい報告待ってるよー」


 いろいろ口を出しながらも笑顔で手を振ってくれるんだから、彼女たちはやっぱりいい子たちだ。そう、わたしたちはお昼を一緒に食べる約束をしていたのだ。けれども縁下くんが先生に呼び出されてしまったので、その帰りを待っていた。教室の外で窓にもたれてわたしを待っている縁下くんの、肩幅とか背中とか、広いよなあと感じて、胸のあたりがきゅうんとする。みんなは草食系だの何だのと言うけど、彼はちゃんと「おとこのこ」なのだ。


「ダーリンなの?」
「えっ」
「いや、聞こえちゃったから」


 隣を歩く縁下くんが、きゅっと口の端を上げる。楽しそうだ。


「そしたらみょうじさんはハニーだね」
「ごめん縁下くん、似合わない」
「ひどいなー」


 廊下をすれ違うひとたちの中には、バレー部の人もいて、にやりとして「イチャイチャしてんなよー」「彼女かわいいじゃないか」だなんてひやかしていく。それらに照れたような顔で対応する縁下くんがいとしい。


「ダーリンっ」
「えっ」


 腕をからめて、わざと媚びたような声を出す。「ダーリン浮気は許さないっちゃ!」とふざけて言ってみれば、縁下くんは急に真面目なかおつきで、わたしをまっすぐに見つめた。


「するわけない。こんなに好きなのに」


 照れる前に、ふくふくと胸の内でしあわせが膨らんでゆく感じがした。いまさらネタだよなんて言う気にもなれなくて、へにゃへにゃのだらしのない表情で、「わたしもだよ」と答えた。


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