菅原先輩はやさしい。何がやさしいって、言葉から行動から表情から、すべてがやわらかくてやさしい。わたしはそんな菅原先輩が好きで好きでしょうがなくて、それを訴えるたびに菅原先輩も「なまえはほんとに俺がいないとだめだな」なんて、ふにゃりと笑うのだった。
 わたしはバレー部の先輩方がだいすきで、その中でも菅原先輩が特別だいすきだ。もちろん、お付き合いをさせていただいているわけだから、そう答えないとちょっとしたトラブルだけど。そういった気持ちなしに、人間として、菅原先輩が好きで、もうどうしようもないのだ。大きい手が、広い背中が、落ち着く体温が、すべてすべてすべて。

 そんな菅原先輩にも限界というものがあったのだ、とわたしは身をもって体感している。菅原先輩のおへやに遊びにきて、わーいおうちデートだとうきうきしていられたのも一瞬で、気付けばこのどきどきが先輩にきこえてしまうんじゃないかってぐらい、たいへんな距離まで、近付いていた。追い詰められたわたしの背後にあるのは、ベッド。
 あ、これ、いただかれちゃうやつなのかな。
 どんなにだいすきな先輩でも、初めてのことだからとっても怖いし、こんな、なんていうか、ぎらぎらしている先輩は見たことがないし、わたしはもう、死んでしまいそうだった。ふるえてしまうわたしの手を、菅原先輩のあたたかくて大きい手がつつみこむ。


「なまえ」
「は、はい」
「こわい?」
「……ちょっとだけ」
「うそつけ。すげーこわいくせに」


 先輩はわたしのおでこにおでこをくっつけて、いつもみたいに笑ってくれた。それだけでもう、わたしってばしあわせ! と舞い上がってしまって、肩の力がすとんと抜けた。


「せんぱい」
「んー?」
「すきです、すき、もう、先輩が思ってるのの、30000倍ぐらいすきなんだから」
「わ、すげえ、想像しにくい」


 ふたりの間をころがる言葉はいつもどおりのはずなのに、流れる空気の温度がちがう。湿度がちがう。粘度がちがう。すっごくどきどきして、からだが鼓動にあわせて痙攣しているような感じさえするのに、先輩がいつもみたいにふにゃりと笑うものだから、わたしはやっぱり、しあわせな気持ちになってしまうのだった。
 オオカミでもなんでも、先輩に食べられるなら、本望なのだ。








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