体調を崩すきっかけは人によって違うらしい。空気の乾燥にやられる人もいれば、寝不足でやられる人、ストレスでやられる人、様々である。わたしはというと、こと寒さに弱かった。
 夏になって、各教室のクーラーがつくようになった。男子は大喜びで、女子はジャージを使って萌え袖なんてしてみたりして、もうそんな季節か、とほほえましく思う。けれどもわたしの体調は思わしくない。言わずもがな、クーラーのせいである。
 体が芯から冷えて、ジャージを着こんでも当然寒くて、頭が痛い。風邪の一歩手前、みたいな感じ。保健室に行こうにも、先生に言うのがめんどくさい。自分の席で縮こまって、数学の教科書を力無く眺めた。


「みょうじ、おい」


 右隣からささやき声がして、そっちを向く。影山くんが心配そうな顔でこっちを見ていた。


「大丈夫かお前、顔真っ白だぞ」
「美白って言ってよ」
「そうじゃなくて、顔色悪いっつってんだよ」


 ちょっとだけトーンをあげた影山に先生が目敏く注意する。びく、と首をすくめた影山が、そっとわたしのノートに手をのばした。


『カゼか?』


 端的な質問のすぐ下に、『ちがうよ』と書く。影山はじっとそれを見た後で、勢いよく立ち上がった。クラスのみんなが、先生が、影山に注目する。


「あの、みょうじが体調ヤバいみたいなんで。保健室つれてきます」
「あ、ああ、そうかね。みょうじさん大丈夫かな、影山くん、帰りにカード持ってきなさいね」
「うス」


 何も言わない、というか言えないわたしの腕をつかんで無理やり立たせ、影山はそのまま教室を出た。それからぱっと手をはなし、わたしをにらみつける。ただでさえ目つき悪いのに、怖いったらありゃしない。


「体冷えすぎだバカ、着とけバカ」


 渡されたジャージは、たぶん部活で使うものだ。おそらく椅子にかけてあったのを持ってきたのだろう、まったく気付かなかった。


「あ、ありがとう、ごめんね迷惑かけて」
「っお前がカゼひいて元気ないほうが余計迷惑なんだよとっとと治せボゲ!」


 影山くんはひそひそ話ができないらしい、隣の隣のクラスの先生がスパァンと扉を開けて「影山ァ静かにしろ!」と怒鳴って、その隙間から見えた、女の子たちの驚いたような顔に、あ、やばいこれ、とわたしはひとり、心臓をうるさくさせるのだった。



 影山のこと、好きになりそうかもしんない。








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