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日の当たるせいであまり人のこないベンチに、並んで座る。わたしは泣き止んで、黙ったままでいた。彼は話を切り出すタイミングをどうすべきか迷っているようだった。空気でわかる、このひとは、尋常でなく、やさしいひとだ。
「あのさ、俺」
ゆったりとした声だけれど、少し、ほんとうに少しだけ、こわばっている。
「みょうじさんのこと、好きなんだ」
ああ、やっぱり。
胸に広がる不安感と恐怖感が、悲しくて、やるせなくて、また涙が出た。わたしも好きなのに。自分の恋さえままならないことが、苛立ってしょうがない。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
嗚咽に飲み込まれそうになりながら、わたしの抱えるトラブルについて、すべてを話した。ゆっくりでいいよ、と言いながら背中をなでてくれる彼と、普通に付き合うことができたなら、どれほどしあわせだったろうと悲しくなって、また涙が止まらなくなった。
「だからわたし、付き合えない。ごめんなさい」
彼はわたしから手を離し、おもむろに立ち上がったかと思うと、わたしの向かいに、膝をついて座った。絵本で見た、王子様みたいな恰好だと思った。そんなガラではないはずの彼なのに、そのポーズが妙にしっくりきていて、ぽかんとしてしまう。
「俺のことが、嫌いなわけじゃ、ないんだよね?」
「でも」
「ならいいんだ。図々しいけど、みょうじさんにどうしても、お願いがあって」
膝の上で握りしめた手を、上からそっと包み込まれる。驚いて手をひっこめかけたけど、彼のてのひらがそれを許さない。
「ゆっくりでいい。俺と一緒に、それ、克服しませんか」
緊張ぎみの顔を見て、わたしは、「そんな」と声をあげた。
「そんなこと」
「ゆっくりでいい。友達からでいい。少しずつでいいんだ。みょうじさんが、誰かに恋をして、付き合うのが、大丈夫になるように、手伝いたい。その最初の相手が、俺だったらな、とは思うけど」
手の甲に伝わるぬくもりがすべてだと思った。彼のやさしさや想いを一身に受けて、人生ではじめて、このひとならいいかもしれない、と思えた。胃のあたりに残る重さや吐き気はまだすっきりとは消えないけれど、今までと明らかに違うのは、心臓のあたりが、きゅうんと切なく苦しいのだ。これは、しあわせな苦痛だ。わたしはもしかしたら、彼となら。うなずいて、手をにぎり返すと、彼もしあわせそうに目を細めた。