朝起きたら女の子になってた縁下くん
09/23 Tue
※タイトルからお察しいただけるかと思いますが下ネタ有です
ばしゃばしゃ、顔を洗って、化粧水と乳液を顔にしみこませて、ふう、と一息つく。時計をみれば、まだまだ余裕のある時間帯。朝ごはんを作らなきゃ、と台所に立とうとして、その前に、ご飯がいいかパンがいいか、力くんに聞かなきゃ、と、寝室に向かった。同棲を初めてもうだいぶ経つ。彼の寝起きを見ることはわたしにとっておいしいご飯を食べることと並ぶぐらいにしあわせなことだ。るんるん気分でドアノブに手をかけ、「力くんおはよー」と声をかける。がちゃ、ドアを開けるやいなや、「来るなっ!」と激しい声がわたしを突き刺した。 よもや、彼がそんな言葉を投げるなんて思ってもみなかったわたしは、茫然とその場に立ち尽くす。中途半端に開いたドアから部屋の中を覗けば、ベッドの上、毛布がこんもりと盛り上がって、彼がその中に立てこもっていることに気付く。
「力くん?」 「来るな、来るなったら」
心なしか涙声になっているような。何をそんな隠すことがあるのか、体調に関するあれこれならばそんな訴えは無視するしかないし、じゃあこんなに必死になって隠したがるということはつまり、シモ系か。アレか。夢精でもしたか。混乱しつつも彼の叫びをよそに、ベッドに歩み寄る。
「来るな、来るな」 「来るなばっかじゃ何なのかわかんないよ。どうしたの」
毛布おばけと化している彼の、くぐもった懇願に、どうにか彼が怯えてしまわないよう、なるべくやさしい声をかけた。しばらくの間の後で、彼の、「見たら、絶対、引く」というか細い声。首を傾げる。一体彼に何があったというのか。
「あのね、もう何年の付き合いになると思ってんの。力くんに何があっても嫌いにならないよ、力くんが中年太りしようとバーコードハゲ拵えようと愛し続けるよ」 「そんなレベルじゃない」
絶句した。それ以上の変化が彼に起こったというのか。モンスターにでもなったのか。それとも毒虫か。ともあれ、彼に何があろうとわたしが彼を嫌うなんてありえない、何度も何度も根気強く繰り返して、やっと、「……ほんとに?」という言葉を勝ち取った。
「ほんとだよ」 「……信じる、よ」
ひょこ、と、毛布の中から顔だけ出した彼に、おや、と違和感を覚える。 なんか、かわいい? いや、かわいいのは元からだ。ぽやんとした優しい目元に白い肌、彼はカッコイイよりもカワイイと言わしめる要素を元から持っている。今さら驚くようなことではない。 それでも。
「あの」 「……」
無言で身体に巻きつけていた毛布をはだけて、そうして披露された彼の身体を見て、わたしは「わあ」と声をあげる。それに彼は涙を浮かべたけどいやだってしょうがないだろう。だってこれおっぱい。だっておっぱい。おっぱいついてるもん。
「嘘つきっ」 「いや引いてないよ力くん。むしろ興奮したっていうか」 「おかしい!」
両手で顔を覆ってわっと泣き出した力くんは、たぶん相当混乱しているのだろう。わたしだってそうだけど、彼がこんな、声をあげて泣きじゃくるなんてめったにない、というか見たことがない。いつだって地に足のついた感じで、どっしりかつしなやかに構えている彼がここまで取り乱すなんて。いや取り乱しもするだろう。だっておっぱい。
「力くん泣かないで」
顔を覆うてのひらを引きはがしながら、その手が白くやわらかであることに気付く。さらに言えば首から肩にかけてのラインもゆるやかな曲線を描いていたしTシャツの胸元には触りたくなるようなふくらみがある。腰のあたりはきれいにくびれていて、なんとなく、生唾を飲み込んだ。
「う、うぐ」 「大丈夫だよ」 「ほん、ほんと?」
抱きしめて、背中をなでてあやす。あああ胸が当たってる。しあわせ。やわらかい。不純な欲望はおくびにも出さずに微笑みながら、「大丈夫」と言い聞かせた。涙でぐちゃぐちゃになった顔がいとおしい。
「俺、俺、どうしよう、ずっとこのままだったら、付き合え……」 「あのねえ。じゃあ聞くけど力くん、わたしが男になっちゃったら、わたしのこと捨てるの?」
わたしのたとえ話を聞き、全力で首を横に振る力くん。そうだよ。わたしは力くんをこんなに愛してるんだから、いまさら性別なんてたいしたお話じゃあない。
「でも、でも、俺」 「だーいじょうぶ。あのね、こういう類のアクシデントには、テンプレだけど、解決策があるのです」
希望に満ちた瞳が近距離でわたしを見つめる。もともと目が魅力的なひとだったけど、こうなってさらにパワーを増している。
「まずはわたしと一発」 「バカじゃないの!」
弾けるような叫び声。同時に繰り出された軽いビンタにリアクションを返して、もう一度彼に向き直る。自分史上最高の真顔を装備して口を開いた。
「よくあるお話でしょ。力くんだって読んだことない? ある日突然けもみみが生えちゃった女の子とか」 「まあ、その、うん」 「あるんだ、読んだんだ」 「ああああ」
またビンタ。今度はさっきよりも強め。ともあれ、もうひと押しであることは分かった。だって彼の目が泳いでいる。
「気持ちは分かるよ、急にこんなことになってさあ致しましょうって言われてはいそうですかとはいかないよね」 「……」 「でも力くん、他に方法思いつく?」
泣き寝入りでもするの? 畳みかければ、彼は顔を真っ赤にさせて、視線をそらしながら、ちいさく、本当にちいさく、うなずいた。よしきた。柔らかい笑みを心掛けながら、やさしく彼を押し倒す。
***
「おはよ」 「……オハヨウゴザイマス」
目を覚ますと、力くんのいい笑顔が視界に飛び込んできた。わたしの顔の両わきにつかれた腕のたくましさは、元のそれである。
「……おっぱいなくなりましたね」 「おかげ様で」
あ、だめだこれ死ぬわ。浮かべられた笑顔の胡散臭さが尋常じゃない。観念して彼の首に腕を回した。
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