小ネタ | ナノ

嘘ならよかったのに
09/14 Sun

*嘘ならよかったのに
※嘘のようなほんとの話 の続き
※引き続き赤葦に懺悔
※タグ放置すみません


 ベッドに仰向けに寝そべって、目を閉じる。あの日、#なまえ#が妙なことを言ったあの時に、俺が何か、違うことを言っていれば、もしかしたら、違う結末が待っていたんじゃないのか、とか。#なまえ#をマネージャーに誘わなければ、こんなことにはならなかったんじゃないのか、とか。あれから何度も考えたことだ。そうして、何度も打ち消してきた。俺が何か言ったところで、#なまえ#の夢をどうにかできたわけじゃあない。それに俺が#なまえ#をマネに誘おうが誘わなかろうが、意志の強いあいつのことだ、結果は変わらなかっただろう。
 頬を染めて、目をうるませて、俺ではない男の話をする#なまえ#を、いったい何回憎もうとしたことか。
 でも駄目だ、俺はこうなってしまっても、#なまえ#が好きなのだ。


「京治ー ちょっとー」


 母の声に、だるい身体に鞭打って、起き上がる。#なまえ#の家に、お節料理を分けに行け、とのことだった。小さいころから父親のいな#なまえ#の家庭は、母親がひとりで働いているから、この類のことに時間を割けない。だから、昔からの付き合いである俺の家が、手の届く範囲で手伝ったりする。年を越したばかりでまだ部活もなく、課題もとっくに終わらせてしまっていたのでちょうど手持無沙汰だった。断る口実をうまく作れず、あたたかい料理を片手に家を出た。


 ぴん、ぽーん、と、チャイムを鳴らして、返事を待つ。しばらくして、#なまえ#の声がした。


『……どちらさま、ですか』


 おそるおそる、といった風な声に、ああそうか#なまえ#の母親は仕事柄休みは少ないのだろう、もう出勤したのか、家でひとりなんだろうか、と納得して、「俺だけど」と返す。あわてたような声のあとで、ばたばたばた、と、騒がしい足音。


「ごっめん京治、あの、もしかしておばさんが……」
「ん。これ。お母さんによろしく」


 言いながら、俺の目は、あるものにくぎ付けだった。玄関の端に置いてある、少しくたびれた、男物のスニーカー。白くて、こじゃれたデザインの。#なまえ#のクロックスの隣に、並べられている。


「もう仕事始まったのか」
「うん、そうなんだ、すごいよねーまだ三が日なのに」


 どこか上の空な#なまえ#の返答。寝間着のハーフパンツに、上に羽織っている、梟谷のジャージ。はだしの、さらされている白い脚は、なんとなく、そわそわしている、ような。
 廊下の奥の、#なまえ#の部屋のドアに目をやる。
 そうか、あそこには。
 すう、と首の後ろが冷たくなる。持っていた荷物を押し付けて、そのあと、どうやって帰ったのか、覚えていない。



 見てしまったのだ、あの合宿で、夜に、自動販売機の前で、抱き合うふたりを。少しの時間も惜しいのか、からだのどこも余すことなくぴたりとくっつけて、何度もキスをして、恍惚とした顔をして。
 #なまえ#の求めているのは、俺じゃない。
 ため息が、白く、空気にとけた。どす黒くないのが、不思議なほどだった。



―――
赤葦ごめんって




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