平凡 | ナノ
王者の背中
準決勝の1試合目は桃とタカさんのダブルスだった。 パワーテニスを主とする二人だけど、今回はなんだか心理戦のような試合で、特に桃の一言一言が試合展開を左右さていた気がする。 乾が言っていたけど、桃はそれに気づいていないんだって。 前に雨が降るって言って見事それが当たったのも関係あるかもな。 D2はこれまた新しい組み合わせの英二&不二ペア。 あたしからしたら普段見慣れてる組み合わせだから違和感無かったんだけどね。
「彼がもし、わざと4ゲーム落としていたとしたら…」
2勝0敗で迎えたS3、海堂の相手は六角部長の葵剣太郎くん。 部長だけど越前と同じ一年らしい。 まだ1ゲームも取れてないのに、彼はなんだかこの状況を楽しんでいるようだ。
「わざと落とすなんて、どうしてそんなことを?」
「自分にプレッシャーをかける為…としか考えられないよ」
「プレッシャーに強いってこと?」
「データと大石の考えを照らし合わせればそう言えるな。」
「恐ろしいね…どこの一年も」
「だからこそ、負けらんねーよなあ、一年には。」
「で、うちのルーキーはどこに行ったの?」
「海堂に言われてアップしに行ったんじゃない?」
「ふーん…もうそろそろ試合終わりそうだし、探してくるね!」
*
ランニングは最適らしい道を歩くも越前が見当たらない。 因みにこれは乾情報。
まあ越前がひたすらランニングをしてる訳じゃないだろうし、ちょっと茂みの方へ入った方が見つかるかなと思ったとき
「兄さん!」
「橘さん?!」
近くのコートから聞き覚えのある声の悲鳴が聞こえた。 恐る恐る近づくと、そこはもうひとつの準決勝が行われてるコートで、橘くんが居た。 そこに越前の姿も発見。
「越前!今の悲鳴って」
「ゆき先輩!…多分、先輩は見ない方がいいっスよ」
「へ?でも橘くんの試合「危ない!」
あたしの声を誰かが遮った。 驚いてコートへ振り返ったことに凄く後悔した。
「「!!」」
コートの真ん中でうずくまる橘くん。 あの人今、彼の膝を狙って打ったのだろうか。 橘くんの膝は既に痣だらけだ。
「いた、い…」
まるで自分が痛みに耐えるように思い切りフェンスを掴む。 こうでもしなきゃ、あたしまでうずくまりそう。 越前も恐らく、コートに釘付け。
「ゲームセット!ウォンバイ立海大附属切原6-1!」
過ぎ去って行くその背中は、あたしには少し、大きすぎたのかもしれない。
喉元の圧迫感 彼等は王者だった
2012 02/24
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