平凡 | ナノ

連想れんそうレンソウ




「はいえーじ!」

「これゆきドリンク!ねぇなんで普段の練習では作ってくんないのー?」

「そうっスよ!乾汁よりよっぽどこっちのが…」

「大会限定ドリンクなのー。いつも飲んでたら有り難みがなくなるじゃん?あと、乾の前でそれ言っちゃダメだかんね!」



乾は見かけによらずナイーブなんだからー!

関東大会二日目。
青学は先程埼玉の緑山中に勝ってベスト4進出を決めました。
なんだか緑山中のテニスは機械みたいで見てて悲しくなった。
みんながみんな、青学みたいに仲間を意識してテニスしてる訳じゃないんだね。



「ね、タカさん!あたし不動峰と山吹の試合見てくるから何かあったら電話して?」

「わかった!気をつけてね。」



行ってきまーすと手を振り2校が戦ってるコートへ走る。
実はこないだの練習試合の日に見に行く約束を橘くんとしたんです。



「ゲーム千石!6-6!!」


「もしかしてタイブレーク?」



コートへ着いて一番に聞こえたのがそれだった。
黒のジャージを纏いコートに立っていたのは神尾くん。
正直、タイブレークと言われるとあの氷帝戦で見た手塚が肩を抑えてしゃがみ込んでいる姿しか浮かばなくて怖くなる。
もしかしたら神尾くんも……。
観客席より前に行けずに、どんどん試合は進んでく。
そのとき、神尾くんの足が一瞬止まった。



「ここまでオレ達を導いてくれた橘さんに、カリを返したいんですよ」



あの日の帰り、橘くんを校門で待ってる時に不動峰のみんなが教えてくれた彼らの目標。
手塚は青学の為に、神尾くんは橘くんの為に戦ってる。



「ちっきしょー!!」



ボールが千石くんのコートに落ちた。









*









「お帰り椎名。どうやら不動峰が勝ったようだな。」

「神尾くんが千石くんに勝ったんだ」

「神尾だったんスか!」

「最後、膝が限界だったみたいだけど…執念で返してね。海堂の粘りが移ったのかなー」

「ケっ。アイツが粘らなすぎだったんすよ。」


「椎名、昼食べないの?」

「あー、なんかお腹空いてないからいいや。不二は?」

「不二なら向こうに行ったよん!」

「んじゃちょっと不二んとこ行ってくるー」



さっきは置いていったマネバを肩にかけて英二が言った方向に歩き出す。
神尾くんの試合を見て、大きなケガもなく終わったのに安心した。
けど、手塚の姿が脳裏から離れない。
結局あたしはあれから、手塚がテニスをしてる姿を見れてないんだ。
試合等の連絡は全て大石がしてるから、メールも電話も一切ない。
あたしがみんなを支えるって、手塚の代わりをするって約束さたのに、これっぽっちも果たされてない。



「ゆき?」

「あ、」

「クス。わざわざ迎えに来てくれたの?」

「まあ…優しいからねあたし。」



視線をそらしたまま返事をしたら優しく頭を撫でられた。
癪に触るけど、今は不二の隣がよかった。



「不動峰と山吹の試合でなんかあった?」

「神尾くんが勝ったよ。」

「そうじゃなくて…。今のゆき、僕のテニスを見てる時と同じ顔してる。」



不二の言葉を聞いて驚いた。
不二はあたしが不二のテニスを見ると苦しくなるの、知ってたんだね。
侮れないなあ。



「不二、あたしね」



もう一度、手塚のテニスが見たいよ。









笑顔隙間
「じゃあ僕はその為に、」
「全国まで勝ち続けるよ。」



2012 02/18