平凡 | ナノ
親友の旅立ち
「ゆき、僕たち先に行ってるね。」
「早くおいでよーん!」
「んー!後でねー!」
顔を二人に向けないまま見送った。 今日は手塚を空港まで見送りに行くためにレギュラー陣は一旦部活を抜ける。 私も例外ではなくてみんなと見送りに行くんだけど、生憎まだ見送る準備が出来てない。 学校を出るまであと20分はあるし、なんとか終わるかな。 手元の針を先程よりも早く動かし始めた。
「ゆきさん」
「ん?」
名前を呼ばれたので顔をあげると、そこには生徒会三年のメンバーが居た。
「それ、手塚にあげんの?」
「…そのつもり」
「終わんのー?見るからに危ない気すんだけど」
「む!今必死こいてやってんじゃん!邪魔しないでよね!!」
プイと海斗に背を向けて事を続ける。 いつもは可愛いとか思うけど、今日ばかりは彼がウザくて仕方ない。 こっちはずっと情緒不安定なんだから本気でやめていただきたい。
「ゆきさんと手塚くんがどれ程仲が良いか、そして彼がしばらく居なくなることで貴女がどれ程悲しんでいるのか、私には痛いほどわかります。」
「けどさ、悲しんでんのは何もお前だけな訳じゃないんだぜ?」
「一人で何でもしようとしないでよね!」
最後の玉結びをしてお守り完成。 机にかけてあったカバンを手に立ち上がる。 三人を無視したままドアの前で立ち止まった。
「悲しくなんか、ないよ。悔しいの。」
自分を暗闇から救い出してくれた手塚に対して何もできなかったことが悔しい。 ずっと九州に行っちゃう訳でもないのに笑顔で見送ろうとしない自分にムカつく。 手塚が、何も自分に相談すらしてくれなかったことが、悔しい。
このまま手塚を嫌いになってしまいそうだった。 でも、橘くんが教えてくれたんだ。
「けど、笑って見送ってくるから。心配しなくても、大丈夫!」
出発まであと3分。 急いで行かないと間に合わないので乱暴にドアを開けて走り出した。
「頑張れよー会長代理!!」
*
「そういえば越前や桃、海堂が居ないね。」
「まーたにゃにかやらかしてんじゃなーい?」
「あの三人は大丈夫。手塚!そろそろ時間だ。」
「ああ。…少しの間だが、青学をよろしく頼む。」
一列に並ぶあたしたちの反対側に立つ手塚。 ひとりひとりと目を合わせて小さく頷いてる。
「ゆき、ほら。」
隣に居た不二に背中を押されてみんなより一歩前に出た。 とっさに手元にある袋を背中に隠す。
「手塚が居ない間は、あたしが大石を支える。生徒会は、手塚の代わりなんて、出来ないけど…琉と二人、副会長として、ひめや女帝、海斗と四人で最上級生として、頑張るよ。だから…」
袋からお守りを取り出し、手塚の右手をとって掌に乗せた。
「安心して行ってきな。治りませんでしたなんて言ったら、乾汁だかんね!」
笑顔でそう言って一歩下がる。 大丈夫、きっと笑えてたはず。
「行っておいで、手塚。」
「…はい。」
彼の後ろ姿が見えなくなるまであたしはずっと笑い続けた。 心配しなくても平気だよって思いを込めて。
信じてくれてありがとう 「ねぇゆき、」 「なーに不二」 「僕もお守り欲しいな」
2012 01/20
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