平凡 | ナノ
波乱のランキング戦
大きな怪我もなく?都大会を終えた。 もちろん青学は優勝。 山吹との対戦は冷や冷やする場面がいくつかあったけど、うちの王子様たちはきちんと勝利を掴んできた。 (なんで王子様かって?クラスの女子がそう呼んでたから真似しただけでーす。) そして待ちに待った関東大会をメンバーを決めるランキング戦。
「ゆき、竜崎先生から伝言。」
「ん?」
「今日の受付は一年が交代でやるから試合を観にこいだって」
「あたしが試合を観るの?」
「審判もできるようになったんだし、面白いんじゃない?」
「確かにそう思うけど…一年のが、試合を観た方がいいんじゃない?」
試合を観るのもひとつの勉強でしょ。 当たり前のことを言ったら不二は少し考えてこう言った。
「僕たちがこうして仲間同士で戦うのはあと少しだから、じゃないかな。関東、全国に向けて僕らはもっともっと強くならなくてはいけない。その姿を、誰かに見ておいて欲しい。」
「…そんなの、みんなちゃんと見てるって。」
レギュラーメンバーの努力は誰もが知ってる。 まだ入部から三ヶ月も経っていない一年生だって知ってるはずだ。 あたしだって、知ってるよ。
「ゆきにも来て欲しいんだよ。僕らが目指してるところに。」
ほら、もうすぐ乾と手塚の試合だよ。 さりげなく手を繋がれて体が前へ前へと進み出す。 彼らが目指しているのは、全国大会で優勝すること。 そのことがなんだか、他人事のように思えていた。 目の前に居る人が、全国へ。 あたしはずっと、その背中を追ってるだけ。 このままじゃもし本当に全国を制したとき、彼らの輪に入らず遠くから拍手を送るだけで終わってしまう気がする。
「不二、」 頑張って追いつくよ。 彼は優しい笑みを返してくれた。
*
「…すごい。」
乾VS手塚の試合は今までにないくらい白熱した試合となっていた。 どこに打った球も全て手塚の元へ吸い込まれるように戻ってく。 竜崎先生曰く、あれは《手塚ゾーン》と言うらしい。 こないだ桃と戦ったときよりも手塚は更に強かった。
「これが、テニス部部長の手塚…」
手塚の構えが先程までと少し変わった次の瞬間、
「ボールが、ネットに戻った…?」
手塚の打った球が垂直に落ちてネットの方へと転がっていった。
「あれが本当の手塚の伝家の宝刀。」
横に居る不二の声に頷く。 今日初めて見たけど、それに相当するものだ、あの技。
「これで試合は全部終わったね。椎名、集計頼むよ」
「はいっ。」
さっきまで観ていた試合の興奮が冷めない中、受付にあった結果表をパラパラとめくりレギュラーメンバーを書き出す。 乾が見事レギュラーに復帰したことに思わず笑みがこぼれ、口元を左手で隠しながら彼の名前を書いた。 最後の一人の名前を書いたとき、そこでようやく驚愕の事実に気がついた。
「桃が…レギュラー落ち?!」
*
「椎名先輩、出欠連絡なんですけど、」
「はいはい。誰が休み?」
「桃城、です。」
ランキング戦から3日。 桃が部活に来なくなってから、3日。 レギュラー落ちが決まったあの日、彼はレギュラージャージを畳んで置いていったらしい。
「Bコート菊丸、大石グランド20周だ!」
関東前だというのに、部活の雰囲気は最悪。 …どうなっちゃうのかな。
「ゆき先輩、」
「越前!どうしたの?」
「今、暇?」
暇ならちょっと付き合ってよ。
途切れ途切れのオルゴールの音 仲間として迎えてくれた彼に 少しでも恩返しができたら、と。
2012 01/09
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