平凡 | ナノ
負ける勇気
「パワー強化を図った紅白戦?」
「ランニングの後そのまま試合を行う。まずは不二VS越前だ。10分後に桃と手塚、その5分後にタカさんVS海堂…更に15分後黄金ペア、の予定。だからそちらの準備を椎名に頼みたい。」
「りょーかい。でもなんでスタートがみんなバラバラなの?」
「全力疾走の後の疲労の溜まり方には個人差があるからな。それぞれに一番負担のくる時間に試合をさせてどれくらい集中できるか。それがこの紅白戦の狙いだよ」
「…乾が居たから出来たことだね。」
そんなことまで計算できちゃうあんたが怖いよ、なんて思ったのは昨日のこと。 校庭30周走らされたあとの話だったから前半の話なんて全く覚えてないけどね。
ちなみにあたしは不二・越前タイプ。 サッカーで元々長時間走るのに慣れてるから走っている間は疲労を感じないけど、集中が切れた途端にガクンとくんだって。 まじ乾なんなんだ。
「ストーカー?」
「…乾汁の新作でも飲むか?」
*
ってな感じで不二VS越前戦なう。 今まで色んな技を越前は繰り出してきたけど、不二はあたしが思っていた以上に強く全てを打ち返した。 だけど、いつもどこか遠くを見ながら、目先に焦点が合ってないようなテニスをする不二をここまで本気にさせてるんだから、やっぱ越前も凄いんだよね。
初めて不二のテニスを見たとき、すごく寂しいと思った。 その前に見たのが英二だったからなのかもしれないけど、今だってそんなふうに思う。 あれは確か、二年最後のランキング戦。
「大丈夫かい?なんだか苦しそうだよ椎名。」
「不二のテニス見るとどうしてもね。」
心配してくれた大石に苦笑いをこぼす。 あたしがこうなることは本人以外みんな承知のこと。 (マネとしては恥ずかしいけど) すると竜崎先生の指示が聞こえた。
「椎名はBコートの審判を頼むよ」
「…え?ちょ竜崎先生突然すぎません?!」
「ルールについて真剣に勉強してると聞いてだよ。ほら、行ってこんかい!」
先生に背中を押されて渋々Aコートを出る。 去り際に不二と英二が憎ったらしい笑みでピースしてきたので犯人はあの二人みたいだ。
「まぁ一度はやってみたいと思ってたけど、なにも手塚と桃の試合じゃなくていいじゃん…」
出来るなら大石と英二の試合がよかった。 だって、さっき手塚を見たら目がマジだったもん。 本気と書いてマジと読む。 手塚は、本気だ。 そんな試合の審判だなんて、
「…息苦しー。」
*
「お疲れ桃。」
「あざっす。…ぷはー!やっぱ部長は強ぇーや!」
結果は手塚の圧勝だった。 あたしの目は間違ってなかったらしく、彼は本気だった。 その証拠に手塚の足についてたパワーリストがあたしの居た審判台に置いてある。
「手塚になんて言われたの?」
「それは言えねーな、言えねーっスよ!男と男の話なんで!」
「…なんだそれ、」
敗北を味わったのに、桃は終始嬉しそうだった。 悔しいんだろうけど、悔いは残ってないっていうのかな。 新しい課題が見つかったいい試合だったのかな。
「ゆき先輩!そろそろ雨降りそうなんでタオルとか仕舞ったほうがいいっスよ!」
「えー?こんなに晴れてるのに…なんで?」
「勘っス!あ、ほら!あっちの雲が暗いし怪しい!」
俺の勘って当たるんスよね〜。
まあ確かにあの雲は怪しいから一雨降りそうだし、片しておくか。 近くに居た荒井たちに手伝ってもらいながらマネ室に着いたとき、窓から無数の雨音が聞こえた。
吐いた言葉は泡となり 「ゆきータオルー!!」
2012 01/07
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