平凡 | ナノ

愛故のハグ




「すんげぇーめんどくさい。ここから動きたくなーい!」

「仕事なんだからしょうがないだろ。さっさと行ってこーい!」

「やだ。今最強に動きたくないモード発動中なんだもん。」

「あのねぇ。アンタが行かないとあたしたちの仕事が終わんないの!わかる?!…黒川も連帯責任だかんな。」

「はぁ…。鈴木先輩、ちょっと行ってきます。」

「気をつけてくださいね。」



一向に席を立つ気配の無かったあたしの手を引っ張って廊下へと連れ出した琉。
生徒会室では今、もうすぐ迎える夏休み前の大詰めで大量の資料チェックが行われていた。
もうすぐ終わる!ってとこではらりと机に現れた一枚の紙によって活動終了の道が妨げられていたのだ。



「つーかなんで今更手塚のサインが必要な書類がでてきたわけ?そういうのはこの間終わらせたじゃん!」

「文句は矢吹先輩に言ってくれません?あの人の机から出てきたんですから。」

「そして何故あたしがテニスコートに行かなくてはならないの?!」

「手塚会長イコール先輩っスからね。大体アンタが会長に部活行けって言ったんじゃないスか。」

「だって…都大会前だし…」

「はあっ。俺も明後日試合なんだけど。ほら、早く会長に言ってきてくださいよ」



琉に背中を押され制服のままテニスコートへと入る。
ほんと、あいつあたしの扱い酷いんだけど!
ひめに対する優しさがもう少し欲しいよあたしにも!!



「あれ椎名、生徒会の仕事終わったの?」

「タカさーん!!今消化中なの。ちょっと手塚に用があってね」

「そうだったんだ。早く終わるといいね。頑張って!」

「…ターカさーん!!」



タカさんの優しさに嬉しくなって飛びついてしまった。
最強みんなあたしへの態度冷たくない?
不二とか琉とか女帝とか!



「…なにをしてるんだ椎名」

「手塚!これにサインちょーだい!」



タカさんから離れて紙とペンを差し出す。
ピクってなった眉が戻り、視線がそちらに移る。



「これは何の資料だ?」

「体育祭の会計資料。特にミスは無いよ、女帝がチェック済み。」

「…これでいいか?」

「うん。んじゃ戻んね〜」



手をヒラヒラさせて琉の居る元へと歩き出すと手塚に引き止められた。
顔を見ると無表情で、特に心当たりは無いのに悪いことをしてしまったのかと脳をフル回転させた。



「気安く男に抱き着いたりするな」

「…は?」

「河村も、困っていただろう。」



一時停止ってこういうこと言うのかな。
フルで動いてた脳は一時停止して活動をやめた。
ちょっとたんま!手塚、どうしちゃったの?



「それだけ「それってさ、手塚も飛びついて欲しいの?」…。」



動きの悪い脳が出した答えはこれ。
実は手塚もハグしたかったのかなって。
ほら、いつも父親ポジションじゃん?
たまには俺も仲間に入れてほしーよーみたいな?
あ、なんか可愛いかも。
そう思って未だ硬直してる手塚に飛びついた。



「あ゛ー!ゆきが手塚に抱き着いてるぅー!」

「どうやら驚きで動けないようだな。」

「何やってんスかゆき先輩…」

「クスっやっぱりゆきは面白いなぁ」

「ちょっ椎名?!何てことしてるんだぁぁあ!」



みんなの声を無視して手塚に抱き着いてたら、無言でやってきた琉に引き離されてゲンコツされた。
そして琉はあたしの手を引きながらコート外へ向かい、テニス部に一礼。
あたしも無理矢理頭下げさせられた。

15分後、手塚に校庭30周走らされたのは言うまでもない。










目なしてどうしたの
「ほんとは嬉しかったくせにさー」
「…もう50周増やしたっていいんだぞ!」


2012 01/04