平凡 | ナノ

ストレス発散は不二でよろしく




「お帰り不二。」

「ただいま。これが噂の元気ドリンク?」

「不二は味覚が可笑しいからマズいかもよ」

「ふふっ。美味しいよ?」

「…なんか複雑だわ。」



0-5という危機的状況から一気に巻き返した不二は無事、聖ルドルフの観月って人に勝つことが出来た。
あの乾ですら不二のデータはろくに取れないのに、他校の観月さんがデータテニスで勝てるわけないよね
(データテニスとはちょっと違う感じもしたけど。)

試合を終えた青学は明日に備える為にそそくさとバス停に向かい中。



「それにしても、ゆきと裕太が知り合いだったなんてね」

「あたしもまさか裕太くんが不二の弟だとはね。どうしてこんなねじ曲がった兄が居るのに、あそこまで素直な裕太くんが育つのか…」

「裕太が素直なのは分かるけど、僕の性格に関しては聞き捨てならないなあ」

「自分のことは自分が1番よく分かってるよね?この前だってあたしの下駄箱に百均のカエルもどき入れたでしょ!!」

「昔裕太にやったら大泣きしちゃったから、ゆきならどんな反応するのかなぁと思って。おかげでいいものが見れたよ。まさか抱き着かれちゃうとは、ねぇ乾?」

「俺もおかげで新しいデータが取れたしな。因みにあの時のことは全部このカメラに収めてある。」



ニヤつきながら右手にあるカメラを見せる乾。
無性に殴りたくなったのは気のせいじゃないよね?
殴るのはもちろん不二です。









*







「みんな寝ちゃったね。」

「お前は疲れてないのか?」

「マネは疲れないよ。手塚は平気なの?」

「降り損ねるのはごめんだ。」



バスに乗り込んで3・2・1で夢の中へ飛び込んだ青学のレギュラーさん。
一日に3試合やってんだから眠くもなるよね。
捻っていた首を元に戻して前を向く。
会話から分かるように、隣に居るのは手塚です。



「明日の相手は銀華中だっけか」

「ああ。」

「決勝はやっぱり山吹がくんのかなーあんだけ言ってたしあの人。けど準決勝の相手は不動峰だと…んーわっかんない!」

「不動峰は着実に力をつけているからな。だが山吹も強い。いずれにせよ油断はできないな。」

「ですよねぇ〜」



ふと先日起こった事件を思い出す。
その日はたまたま生徒会の仕事が長引いて部活に遅れて行った。
ついでにゴミ出しを女帝に頼まれたから校舎裏の方に入ってったら、血だらけの越前と水野、荒井に出くわした。
過去のトラウマからどんな状況であろうと血を見るのは苦手だった。
乾に話して少しは平気になったものの、やはり一人だと直視できなくて。
でも、選手が怪我をしているのにトラウマがあるので何もできませんでした。なんて言えなくて彼等を連れて保健室へと向かった。



「心配するな。」

「…なにを?」

「もうあのような怪我はさせない。椎名の為にも、部員全員、だ。」



三人が怪我をした理由はとある他校の生徒が乗り込んで来たのが原因。
その人物は山吹の亜久津って言ってタカさんの幼なじみらしい。
詳しいことは知らないけど、越前が相当キレていた。



「手塚もね。」

「…。」

「どこが痛いとか知らないけど、手塚だって怪我したら、心配の対象に入るんだよ?」



多少声に怒気を込める。
どうして彼はこうも一人で溜め込むんだ。

あたしは辛いこととか手塚に話すし、乾に愚痴るし不二でストレス発散してるし。
けれど手塚は、自分の弱い所を一切見せない。



「すまないが、」

「 ? 」

「今は勝つことしか、考えていない。」



やっと気づいた。
手塚は、彼は今、青学の為だけにテニスをしているってことに。









皆の不運は僕が背負うよ
一人にしないって言ったのに
自分が孤立してるじゃんか。


2012 01/03