平凡 | ナノ
元気の出るジュース
うちのルーキーはプレーだけでなく、日常生活でもいろいろやらかしてくれました。
「なんで寝坊したの?」
「寝坊って決めつけないでよ」
「越前の言い訳を信じるのは心優しいうちの副部長だけだから。」
都大会初日の今日、越前は遅れて会場にやってきた。 それも「今にも生まれそうな妊婦さんを助けた」というバレバレな嘘の言い訳付きで。 大石は優しい心の持ち主なんだから、それを利用するようなマネはやめてよね!!
「今日は手塚も出るんだ!」
「あぁ。それより、左手に持っているものはなんだ?」
「これはねー、ゆき特製”元気の出るジュース”です!」
飲んでみ?と手塚に差し出すと恐る恐るペットボトルに口をつけ飲んだ。 探ってる感じなのはあれですよね、乾汁のせいですよねわかります。 あたしも試飲とか言って飲まされたけどぶっ倒れたもん。 あれを美味しいとか言う糸目の野郎の神経が分からない。
「…これは、お前が作ったのか?」
「うん。美味しい?」
「名前の通り元気になった。ありがとう」
「飲んだからには優勝してよ?」
手塚は中身の残ったそれを持ってアップへ行ってしまった。 それを見兼ねた英二があたしのとこにすっ飛んでくるのは3分後。
*
都大会準々決勝は波乱の幕開けだった。 まずD2の桃と海堂は桃のダンクスマッシュが相手の顔に命中し棄権勝ち。 周りは終始このペアに不安を抱いていたようだけど、あたしはいいペアだと思ってたよ? あの二人なんだかんだ仲がいいし、喧嘩から仲の良さが滲み出てるもん。 続いてD1は黄金ペア。 英二の目の良さがあだとなり残念ながらD1は負けてしまった。 黙り込んだ彼を見て改めて英二のテニスに対する熱い思いを垣間見た気がする。 普段はあんなにおちゃらけてるのにね。
そして今、目の前で行われているのはS3。 いろいろやらかしたルーキーの出番だ。 あたしは不二の横で観戦中。
「あれ、不二の弟なんだって?」
「うん。前は青学だったんだけど、僕のせいで転校しちゃった。」
苦笑いする不二を見て心がズキりと痛む。 不二もこんな顔するのか、と考えるのも束の間。 不二の弟の顔を見て、あの日本屋で丁寧にテニスのルールブックを選んでくれた少年を思い出した。
「不二の弟の名前、もしかして裕太くん?」
「そうだけど…なんで?」
いくつかのピースが集まる。 よく考えれば彼は《聖ルドルフ二年の不二裕太です》と言ってたじゃないか。 今まで気づかなかった自分にため息。 あんなにいい子を忘れるだなんて。
「前に本屋でよくしてもらって。あたしがテニスのルールわ覚えられたのは裕太くんのおかげだよ」
「そうだったんだ。」
「兄弟で何があったかは知らないけど、裕太くんいい子だしまた仲良くなれるんじゃない?」
仲が悪いと分かったのは先程の不二の言葉と試合前《俺は兄貴を越える》と裕太くんが言ったから。
「俺は上に行くよ。」
打倒兄貴に燃える裕太くんに越前はお構いなしでガンガン攻めてく。 この試合で少しは何かが変わるのかな。 不二に視線を移すと、「やってくれるね、うちのルーキー」って優しく微笑んでいた。
強さの秘密は兄弟愛と覚悟 見せてあげなよ、不二 言葉で伝わらないなら、貴方のプレーで。
2012 12/31
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