平凡 | ナノ
マネージャーの秘密
「うわーお。随分と派手にやったね海堂。」
「…」
「ばい菌とか入ったら大変なんだから〜はいっOK!」
「…ありがとうございました。」
今日のランキング戦は越前が海堂に勝って幕をおろした。 受付で試合は観れてないけど、大石に呼ばれて救急セットとともにコートへ向かうと水道場付近で、膝から血をダラダラと流してる海堂を発見。 彼が自分にストイックなのは聞いてたけど、ここまでとは…ね。
「あたしも、あれくらいサッカーに打ち込めたらなあ…」
日が暮れるまで練習して、誰よりも早く学校へ来て朝練やって。 中学に入ってすぐは、毎日そうやって過ごしてた。 だけど、サッカーはあたし一人がどうしたって仕方のないものであって、それに気づいたときは、どうしようもなく、寂しかった。
*
「ねぇ、」
「あ、越前!どうしたの?」
「これ、アンタの?」
越前が手に持っていたのは試合でよく使うバインダーと、その間に挟まれた部誌。 この部誌は手塚のとは別にあたしが勝手に部員について書いてるものだ。
「なんで越前がこれを?」
「さっきそこでバスケ部とサッカー部の人に渡された。なんか生徒会がどうたらこうたら言ってたけど…」
「うららと海斗か。ケンカしてたでしょ?」
「うん。てか先輩って生徒会なんだ。」
「…薄々気になってはいたんだけどさ、タメ口なのはわざと?それとも天然?」
「別に。それよりなんでテニス部のマネやってんの?」
帽子の鍔ををクイッと上げて斜め下からあたしの顔を覗いてきた。 そうだよね、この子まだ一年だもんね。 あたしのがまだまだ背高いよね。 あまりに親しすぎて学年の感覚を失いかけたよ。
「なんでそんなこと聞くの?」
「そこそこ運動出来そうだし、ボールのカゴ、一人で3つ持ってくるし。」
「あー、元サッカー部なんで」
「…尚更気になるんだけど」
「そうだねぇ…あたし、転校生なんだ。秋に来たからやっと半年かなー。時期も時期だし、帰宅部の予定だったんだけどさ、」
「けど?」
「手塚に誘われたんだよね。まあ正確に言うとポーカーの罰ゲームがマネやることだったわけ。」
「…部長と仲良いっスよね、先輩って。」
この子は時折敬語を交ぜてくる。 他のみんなは一応先輩扱いなのに、あたしは一体なんなんだ。 (新手のイジメ?)
「手塚はあたしの親友らしいから。」
「そう言えるアンタが恐ろしい。」
「案外上手くやっていけるよ?さ、そろそろコート整備しないと」
「ウィーっス。」
越前とコート前で別れてあたしはマネ室へ。 歩きながらさっき受け取った部誌を開いたら、1番新しいページにこの学校に来てから嫌というほど見た字を発見。
「一緒に全国へ行こう。か…」
中学生の字とは思えない程綺麗な字で、ノートの端にそう書いてあった。 連れていってやるじゃなくて一緒にってところが、実に手塚らしい。 ”一緒に”には多分、色んな意味が含まれてるんだと思う。 マネジャーとして、一緒に。 仲間として、一緒に。 部活を怖いと言ったあたしに、手塚が用意してくれた居場所。
「椎名はもう、一人じゃない。」
彼は確かに、そう言った。
「椎名ー!鍵閉めるぞー!」 「はーい!」
あたしはもう一人じゃないんだから、今度こそ、”部活”で”みんな”と上を目指すんだ。
安心する慣れた匂い 「おーいし!たまには鍵当番代わるよ!」 「大丈夫だよ。それに椎名だって十分早くに来てるじゃないか!」 「えー。んじゃ、明日は一緒に鍵取りに行こ!」
2011 12/13
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