平凡 | ナノ
いってらっしゃい!
「手塚ーいちおドリンクの粉は多めに用意しといたから。あと入学式の祝辞のことなんだけど…」
「それの最終確認は落合先生だ。」
「これもおっちーなの?三年の担任もおっちーだし…」
「ゆきはおっちーに呪われてるんじゃにゃい?」
「ふふっ。4月からが楽しみだね。」
「二人とも他人事だと思って…新年度からは君たちの担任でもあるんだからね!」
時は3月の下旬。 世間では春休みと呼ばれるこの時期。 青学テニス部レギュラー陣は明日から遠征なんです。
「俺も行きたかったっス〜」
「桃はおとなしくしてるんだぞ」
「すぐ無理するからなあ」
「先輩、何かあったら殴ってやってください。」
だがしかしBUT!足を捻挫してる桃は学校でお留守番。
「すまないが、よろしく頼む。」
「はいはい。ゆる〜く終わらせとくから!」
同じくあたしもお留守番。 生徒会長の手塚が不在となるので、代わりに入学式で副会長のあたしが壇上に立つためだ。
「二人で頑張ろうね、桃っ!」
「っス!頑張りましょうゆき先輩!!」
*
ところ変わって職員室。 入学式の打ち合わせをしにおっちーの元へやってきたのだ。
「そんなんでいーんじゃね?あんま長いと一年も飽きるだろ」
「ですよねー。んじゃこれでいいや。」
おっちーから用紙を受け取り鞄にしまう。 この人かなりゆるーい先生で、親しみやすいのか生徒からは絶大な人気を誇ってる。 因みに社会科の教師です。
用が済んだので去ろうとしたらおっちーに引き留められた。
「俺さ、心配だったんだよ。」
「何がですか?」
「転校してきた日の椎名の目、周りを疑ってる目してたから、こいつやべぇーなって。」
「……」
「でも、変わったな」
「…そう、ですか?」
「生徒会に入ったときも思ったけど、テニス部入ってから更に。お前、よく笑うようになった。」
おっちーの言ったことは自分でも薄々感じてた。 テニス部のみんなと過ごすことで少しずつ、過去の傷が閉じていくように、スマイル0円じゃなく心から笑う数が増えた。
「おっちー、生徒をよく見るのはいいけど、」
「なんだ?」
「好きな人もよく見といた方がいいよ。ほら、また安先生、林田先生に話しかけられてる。」
「なっ何?!てか!なんで椎名がそれを知ってんだよ!?」
「テニス部マネナメないほうがいいですよーじゃ、失礼しましたー!」
*
不二に言われて最近気づいたことがある。 それは観察力だ。
普通にラリーをしてた英二の動きに違和感を感じて、肩を触ってみたら盛大に痛がった。 どうやら体育でケガしたのを隠してたらしい。 そのとき不二に「大石でも気づかなかったのに…。ゆきは人を良く見ているんだね。」って言われた。
それからというもの、事あるごとに人をジーッと見つめてしまう。 (クラスの子に「俺のこと好きなの?!」と勘違いもされました) そして、手塚の腕にも違和感を抱いたんだけど、聞いても本人は何も答えてくれなかったから放置した。 手塚は大事な親友だ。 言いたくないことを、無理に聞く必要なんなかない。
「…やっぱ変わったのかな、あたし」
一人呟き駅への道を早歩きした。
桜の雨に紛れた君の香り 毎日が楽しい。 そう思えるって、すごく幸せ。
2011 11/20
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