「急いで友梨!もう試合始まってるんだから!!」



8月中旬、あと三週間も経たないうちに夏休みが終わってしまう、とても暑い夏日。
あたしたち青学バスケ部は見事全国制覇を成し遂げた。
バスケに関してはほぼ無名の青学。
去年も都大会ベスト8だったが、今年は負け無しで有終の美を飾った。



「越前くん、大丈夫かな…」



自分の試合を終えて急いで向かったのは、テニスの全国大会の会場。
なんとバスケの決勝の日とテニスの決勝の日が被ってて、かろうじて長引いていたテニスの試合を見に来ることができたのだ。

あの日以来、まともな会話はしていない。
お互い練習に大会にで忙しかった。
それでも越前くんは試合ごとに結果をメールしてくれて。
結局、全国まで互いの試合を見に来ることはできなかった。



「あれ、越前くんじゃない?」



会場に入ると人であふれかえっていて、その真ん中のコートに白帽子の男の子――越前くんがいた。
咄嗟にゲームカウントを見れば彼は負けている。

一体今までどんな試合が行われていたのだろう。
越前くんのラケットにボールが当たらない。
遠くからでよく分からないが、彼は何も見えていない気がした。



「立海の部長って確か五感奪えるんだよね。」

「五感?」

「そう。現に今、越前くんラケット振り遅れてるじゃん?」



どうやらさっきのは見間違いではないようだ。
目が見えなきゃ、耳が聞こえなきゃ、何も始まらない。
無惨な形で、このまま終わってしまうの?



「ちょっ!友梨どこ行くの!!」



そう思ったら居てもたってもいられなかった。
越前くん、諦めたらダメだよ。
あたしは、あたしは――――



「越前くん!」



観客席の1番前まで来て、丁度ひざまずいてた彼に向かって叫んだ。



「バスケ部は勝ったよ!あたし、全国制覇、したんだよ!…だから!」

「…」

「っだから!越前くんも勝ってよ!お願い、立って!」



聞こえてないはずなのに、彼は立ち上がってこっちを見た。
そして、



「テニス、楽しんでる?」



左に握ったラケットを相手に向けてそう言った。
その左手にはあたしとお揃いのリストバンドをつけて。







*







あのあと越前くんは試合に勝って見事、青学を優勝へと導いた。
試合を終えてみんなに胴上げされてる彼は、なんだか可愛らしかった。



「山野井!」

「!越前くん!」



トイレへ行った友人を待っていたら越前くんがやって来た。



「ありがと。」

「え?」

「あんとき、何も見えないし聞こえないしでどうしたらいいかわかんなくなってたんだよね。もうダメかとも思った。けど、山野井の声は何故か聞こえて、もう一度、勝とうって気持ちになれた。」



だからありがとう。



越前くんは今までで1番嬉しそうに笑った。



「あたしも越前くんのおかげで頑張れたよ。フリースローのとき、ずっとこれ握ってた。」



右手につけたリストバンドをギュッと握る。
こうするとなぜか安心するんだ。



「山野井も、おめでと。」

「…ありがとう。」

「本当は今いろいろ話したいんだけど、時間無いから明日会えない?」

「明日は特に何もないけど…」

「じゃあ青春台駅に10時待ち合わせで。」

「駅?どっか行くの?」

「……デート。」









あとで告白するから待ってて


2011 1214 By魔女