「あとはまあ教科書読んだりすればいいと思うよ。」

「ん。それは家でやる。」



あの日から週に二回程度、昼を食べつつ越前くんに国語を教えてあげた。
苦手と彼は言ったけど、どうやら頭がいいみたいで飲み込みが早く、とても教えやすかった。



「…終わっちゃったね。」

「え?」

「越前くんが言ってた範囲、今日で終わったよ。」



思った以上に勉強会は坦々と進み、夏休みに入る前に範囲を終えてしまった。
初対面の越前くんは強引だったし、我が儘だなあなんて思ってたけど、今となっては同じように部活に懸命に取り組んでる仲として結構話しやすい友人となっていた。
恐らくこのまま夏休みに突入すれば、もう彼とこんなふうに会うことはないだろう。
そう思ったら、少し明日が淋しくなった。



「観に来てよ、試合」

「…テニスの?」

「試合の予定メールするし、そしたら夏休みも会えるじゃん」

「!!」

「…あんたが迷惑じゃなかったらの話しだけど。」

「っ全然!迷惑なんかじゃ、ないよ」



慌ててそう言ったら越前くんはちょっぴり口角を上げて笑っていた。
あたしの考えてたこと、越前くんにバレバレだったのかなあ。



「あとお礼したいんだけど、何か欲しいものない?」

「別にお礼なんて…あ!」

「なに?」

「じゃあさ、日曜の午後、スポーツショップ行くの付き合ってよ!」

「…そんなんでいいわけ?」

「うん!越前くんと出かけたい!」



男の子と二人で出かけるなんて初めてだな!なんて思ってたら、校門で待ってるから。と言って彼は教室へ戻ってしまった。
あたしも席を立ち自分の教室へ向かう。
行きより遥かに軽い足取りで廊下を歩いた。







*







「どっちにしようかな…」



スポーツショップに来てかれこれ1時間が経つ。
あたしはずっと同じ場所を行ったり来たりしていて、越前くんはテニスコーナーへと行ってしまった。
目の前にはリストバンドがふたつ。
オレンジと黄色のストライプのものと、白地に赤と青のラインの入ったもので、どちらにしようかずっと悩んでいるのである。



「リストバンドが欲しいの?」

「うん。でも色が決まらなくて。越前くんはもういいの?」

「こないだ新しいラケット買ったし。」

「…そーいえばラケット折れたんだっけ」



確か朋香が「リョーマ様がケガしたの!」って血相変えて言ってたな。



「こっちにすれば?」



越前くんが手に取ったのは青学カラーの方で、何故かふたつ持っている。



「じゃあそっちにしようかな。でもふたつも要らないよ?」

「ひとつは俺のだけど?」

「……ええ?!お、お揃い?」

「いいじゃん別に。この方が頑張れる気がするんだから。」



淡々と喋る越前くんの横でどんどん顔が赤くなってくあたし。
お揃いのリストバンドにしたら頑張れるって、そんな、



「早く行こうよ。パフェ食べるんでしょ?」

「うっうん!」



期待、しちゃうじゃんか。









マシュマロは溶けてしまった

2011 1213 By魔女