「以上で入学式を終了とさせていただきます。新入生は担任の指示に従い、速やかに各教室へ戻ってください。」



同じ制服を着た生徒がぞろぞろと席を立ち出口へと向かう。
あたしも前の人とある程度の距離を保ちながら歩く。
教室へと入る途中、廊下の窓から中等部の校舎と大きな木が見えて、口許が緩んだ。
彼のお気に入りの場所だったあの大きな木。
夏には緑、秋には鮮やかな紅の葉をつけて青春学園の四季を一人で飾っていた。
…今年もまた、一人で春を迎えたのである。
彼が居なくなってから、三度目の春だ。







*







「昨日のリョーマ様もかっこよかったぁ!!」

「はいはい。その台詞、もう7回目だからね?」



同じクラスでたまたま隣の席になった朋香はテニス部のルーキーである”リョーマ様”が大好きらしく、毎日のように彼の話を聞かせてくれる。
今日は昨日地区大会でリョーマ様が瞼を切ってまで試合した様子を先程の台詞を交えながら語ってくれてます。



「朋ちゃん、今友梨ちゃん部活ノート書いてるんだしさ、あとで話そうよ。」



弱々しい声でそう言ったのは朋香の幼なじみらしい桜乃。
彼女もまたリョーマ様ファンらしく、テニスを始めたきっかけは彼だとか。



「友梨も一度見に来たらいいのよ!」

「いや、テニス部が活動してるときはバスケ部も活動中だから!」

「友梨ちゃんも忙しそうだもんね…。バスケ部は地区大会いつなの?」

「来週。土日で一気に決めるから四試合あんだ。優勝する予定だから全部試合!」

「あんたってバスケに関しては自意識過剰よね」

「それくらいの自信がなきゃ全国狙えませーん。リョーマ様にも聞いてみなよ」



あたしはミニバスをやってたこともあってバスケ部所属。
今年はメンバーも結構いい感じに揃って本気で全国を狙っている。



「テニス部ばっかにいいとこ持ってかれたくないしなあ」



あたしの呟きは誰に届く訳でもなく、賑やかな教室へ消えていった。







*







「ねぇ」

「ん?」



部活中、休憩中に顔を洗っておこうと思い、気分で外の水道に行った。
急にかけられた声に恐る恐る振り返ると、



「あっ…」



例の”リョーマ様”がそこに居た。



「あんたがバスケ部期待のルーキー山野井友梨?」

「……うん。」



期待のルーキーという言葉に一度頷くのを躊躇ったが、彼の目は真剣だったので何とか返事をした。
あたしも彼と同じように実力でレギュラーの座を手に入れた。
部活は違えど、同じ期待のルーキーだ。



「あのさ、俺に国語教えてくんない?」

「…はあ?」

「先輩に古典が出来ないって言ったらあんたに聞けって言われたんだよね。」

「なんであたしが国語得意って…あ、」



一瞬テニス部に居る幼なじみの顔が過ぎった。
こんなことするの、あの人しか居ないよね。
…つまり、これは断ってはいけない。



「…今週は大会前で部活オフ無しだから厳しいんだけど」

「んじゃ昼休み。明日迎えに行くから」

「強引だね…」



次の日、”リョーマ様”は約束通り迎えに来た。
朋香がいろいろうるさかったけど、彼は知らん顔でズカズカと歩いてく。
これがあたしと彼の初めての出会いだった。






愛されたい彼女は靴を残す


2011 1212 Byくも