「…もーいっかいお願いします。」

「だから明日、12時の便でアメリカ行くから。」



全国大会を終え、一日が経った13時頃、突然リョーマから「テニスしに行こ」というお誘いを受けた。
誘う相手間違ってないかな〜なんて思ったけど、とりあえず待ち合わせ場所に向かってみた。

ラケットを持ってないあたしはリョーマのを渡されて、コートに立たされ、ちゃっかり走らされました。


さすがにもう無理だと思ったのか、休憩することになり、今に至る。



「なんでまた、アメリカに行くの?」

「強くなりたいから。もっともっと強くなって…青学の柱になる。」



一切目を合わさず、お互いコートを眺めたまま、そこからは何故か、いつもと変わらない話しをしてた。…はず。












リョーマの一言に頭がついていかない。
いつもキラキラ輝いてたリョーマが、テニス部で1番近くに居た彼が、明日から居なくなる。
親友とも呼べる彼に、本来なら「いってらっしゃい、頑張って」と声をかけるべきだ。
クラスメイトとして、マネージャーとして、仲間として。
だけどあたしの中の”何か”が、その台詞を言わせてくれない。



「…着いたけど、」



リョーマの声にハッと我に帰るとそこは自分の家の前だった。
どうやら、帰宅中は終始無言だった様子。
………もう、時間がない。



「やだ、よ」

「え?」

「やだ!リョーマが居ないなんて、やだ!そんなの、考えらんないよ…。」



視界が滲んでとっさに俯く。
こういうときの女の涙は卑怯だとあたしは思う。



「他の、人に、は?」

「まだ。メールすればいっかなって。でも、」



杏奈には直接言いたかったから。



彼の台詞に段々と熱くなる顔、速くなる鼓動のリズム。
この感覚を一体なんと言うのか、今のあたしには理解できない。



「いつ頃戻るか決めてないけど」

「…うん」

「絶対帰ってくるから」

「う、ん」

「マネージャー、やめないでよね。」



ぐしゃぐしゃとあたしの頭を撫でるリョーマ。
その表情は今までで一番優しかった。



「それと、」

「…なに?」

「今日誘ったのがなんで杏奈だったのか、よーく考えといてよ。」



手塚部長でも、桃先輩でも竜崎でもない、杏奈だった理由を。











頭の片隅に居るあなたは誰?
(過ぎ去ってくその背中は)
(屋上で見たあの日よりも)
(逞しく、男らしかった)



20111017

   
      bkm