Amour | ナノ


今だけ、

「なんかさー、インターハイ終わってからロード多くない?」
「準決勝の洛山戦で最後の最後に迫られたのは体力の無さが原因だったと思ったからさ、ロード増やしてもらった。」
「ああー確かにそうかも。だいぶばててたもんね、みんな。」
「あの学校は強いけど闘志ハンパないからなあ」


ロードを終えて30分の休憩中のあたしたちは扉付近の壁に寄りかかりながら話をしてた。体育館の中はたとえ九月でもまだまだ暑い。着ているジャージはかなりびしょびしょ。着替えよっかなー。


「紗由先輩!お客さん来てます!」
「お客さん?」
「委員会かなんか?」
「紗由は体育祭委員だからもう集まりなくね?」
「いや、その、違う学校の方で…」
「え、他校?」
「はい。少し不思議な色のブレザーでした!」
「誰だろ…キャプテン!時間内には戻るねー!」
「りょーかい!」


後輩が言うにその人はあたしたちが居る側と反対の扉に居るらしい。モップ掛けをしてる一年の間を潜り抜けつつ、そこまで走った。


「お待たせしましたーって、あれ?」
「やあ。」


扉から顔だけを出して外を覗けば、そこに立っていたのは、幸村だった。その手に持ってるのはあの見飽きたラケバじゃなくてスクバで、妙に違和感がある。


「なんで居るのって顔してるね。」
「そりゃあ…そもそもこの学校なんて知らなそうだし、」
「蓮二に頼んで教えてもらったんだ。久しぶりに君がバスケをしてる姿が見たくて。」


ダメっだったかい?そう言って首を傾げる幸村。この人ほんとズルい。顔がいいんだからそんなことしなくていいのに。そして、なんで今なんだろう。


「ダメってことはないけど…突然すぎない?」
「だって進学先教えてくれなかったから、観に来たくても来れなかったんだよ。」
「蓮二は知ってたでしょ?」
「アイツは約束ごとに関しては口が堅いから。聞いても教えてくれなかったよ?」
「…分かった。見てっていいけど、ギャラリー席は二階だから、ローファー脱いで?」
「ふふっ。ありがとう。」


相変わらず、人を言いくるめるのが上手い。目の前の幸村に動揺しつつも、驚きを隠し通すことに成功したあたしは、幸村をステージの方へ連れて行く。部員たちは男子の訪問に驚いてるのか全員こっちを見てる。それに対し幸村は慣れてるのか堂々と歩いてる。


「そういえばさ、」
「ん?」
「三連覇、おめでとう。」


今からゲームだから、面白いと思うよ。
一切顔を見ずに、あたしはコートに戻った。後ろで彼がどんな顔をしてるかわからないけど、あたしは妙に暑くなった頬に色んな言い訳を考えるのでいっぱいいっぱいだった。




ノンストップ・デイドリーム
(あたしたちの夢はまだ終わってなかったから、)
(寄り道する暇なんて、なかったんだ。)


20130216 by花畑心中

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