Amour | ナノ


あの頃は、

高屋に会ったのは卒業式以来だった。立海はほとんどが高等部へ進学するから中学の同窓会なんてやらないし、やっても多分彼女は来なかっただろう。高屋の中心はバスケだ。


「幸村、ここんとこずっとボーっとしてっけど大丈夫か?」
「そう?」
「ああ。だってさっきも肩叩くまで反応なかったし。」
「…あの日から寝る前になると、必ず高屋の顔を思い出すんだ。」


横の席に座ってたジャッカルは目を見開いて驚いていた。こうしてると中学の頃を思い出すなあ。その時の相手は蓮二だったけど、今と全く同じことを言っていた。


「まあ、幸村が高屋を諦めてねぇってことはなんとなく分かってたけどよ、」
「そうなの?その割には随分と驚いてるじゃないか」
「幸村の声があまりにも震えてっからだよ。そんな声で話されたら誰だって驚くだろ。」
「…ふふっ。俺ほんとダメなんだよね、アイツが絡むと。」
「部長の幸村精市ではねぇよな。でもそんな幸村見ると安心するぜ?俺たちじゃなかなかガス抜きさせてやれないからさ。」


照れ隠しなのかジャッカルは鞄をがさごそと漁りだした。俺は頬杖をついて教室を見渡す。今ちょうど黒板を必死に消してるのは今年のミス立海だっけ。赤也とブン太が超美人だ!って叫んでたからよく覚えてる。まあ確かに美人だよなあ…。

それでも俺は高屋が好きで忘れられないみたいだ。ミス立海に何度も話しかけられたことはあったけど、高屋と話してた時みたいに胸が高鳴ることは一度もなくて。おかげで高校生活はすべてをテニスに捧げることになったんだ。


「もう一度告らないのか?」
「知ってる?告白って想像以上に精神削られるんだよ?」
「知ってるわ!!でも!一度フラれても好きなのは幸村じゃねぇか!」


珍しく声を張り上げたジャッカルに今度は俺が目を見開くこととなった。ジャッカルがこんな風に俺に対して何か言うことなんてなかったのに。すると「うじうじしてる幸村なんか幸村じゃねぇよ…」と呟いた。


「…俺って思ってる以上にしつこい?」
「相当だと思う。」
「また三年経ったのにまだ好きとか、俺自身信じられないんだけど。」
「でも一途な方が幸村らしいっていうか、いいと思うぜ?」
「ふふっ。こんな風にジャッカルに慰められるなんてね、」
「俺も、幸村を叱咤する日が来るとはな。」


二人して小さく笑って、それと同時に昼休みの終わりを告げる鐘が鳴った。ジャッカルは鞄を持って自分の席へと戻り、俺は机の中から5限の倫理の教科書を取り出した。

今日は家の近くの花屋に行こうと思ってたけど、予定変更かな。久しぶりにあいつのバスケが見たい。だから、蓮二に海常の最寄を聞いて行ってみよう。今度こそ、高屋の眼を見て話したい。


「ジャッカルに言われちゃったしね。」





指切りセプテンバー
(この思いを終わらせないように。)


20130209 by花畑心中

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