Amour | ナノ


この時は、

「頑張ってるみたいだね赤也。」
「アイツも二度目の部長だもんなー」
「中学の頃よりしっかりしてますね。」
「赤也もだいぶ性格が温厚になったからな。後輩たちもよく懐いてる。」


夏休みが明けて一週間。暦の上ではもう秋だけれど、昼間はまだ暑い。遠目からもテニスコートで走り回ってる後輩たちの顔に汗が伝ってるのが見える。


「のう幸村、せっかく全員居るんじゃき、ご飯でも行かんか?」
「いいね。ファミレスでも行く?」
「む。仁王勉強はいいのか?」
「オレは専門行くけぇ、平気じゃ。」
「仁王は受験勉強よりも地学の単位の心配しろよ。」
「ははっ!お前卒業できんのかよぃ?」
「そういう丸井君も、危ない教科ありますよね?」
「仁王も丸井も12月の期末ですべてが決まるな。」


部活を引退したあともなんだかんだで集まってしまう俺たち。そのまま立海大に進む者も居れば、仁王のように外部進学をする者も居るが、まだそこまで受験ムードではないのでこうして一緒に帰ってる。
みんな元気だなあ、なんて思って歩いてたら横に蓮二が居た。


「進路は決まったか?」
「まだ迷ってる…もうすぐだよね、校内推薦の締切。蓮二はやっぱり外部?」
「ああ。恐らく貞治と同じになるだろう。お前が迷うのは芸術系かどうか、か。」
「ただの趣味だし、本格的にやる必要はないかなって。立海なら英文科のつもり。」


どちらを取るにしろ蓮二と一緒に居られるのは高校までか。蓮二はデータテニスをするくせに得意科目は古典。第一志望も確か国文学部。一緒に居て落ち着くし真田みたいに鈍くないから結構いろんな話ができて助かってたんだけど、この先はどうしようか。




*




「この人はアイドルか何かか?」


ファミレスで一人一食メインのものを頼んでそのあとはひたすらデザートを食べまくってる丸井を眺めつつ、ドリンクバーで時間をつぶしていたとき、ふと真田がテーブルの端に立てかけてあった広告を指差して言った。そこにはよく街中でも見かける金色の髪の男。


「真田、キセリョ知ってんの?」
「きせりょ…?」
「彼はモデルさんですよ。確か年齢も私たちと一緒で高校三年です。」
「神奈川の海常高校でバスケ部エースだ。」
「柳のそのノートってモデルのデータもあんのか?」
「いや、これはたまたまあいつが行った…」


蓮二が喋ってる途中で入り口付近から甲高い女子の声がした。彼女たちがちらちらと見てる方向を見れば、今ちょうど話題になってる人物がそこに居て、


「うっわ、本物が来たぜよ」
「しかも女連れてんじゃん。すんげー髪短けぇ…って、ん?」
「あれは…」


彼の横に一人、女の子が居た。真っ黒で短い髪に女子の割には高めの身長。その姿に俺たちは見覚えがあった。


「先ほどの続きだが…、俺が黄瀬涼太のことを知ってるのは、高屋の進学先が海常でたまたま彼がバスケ部だったからだ。」


視線に気づいたのか彼女がぱっとこっちを向いた。俺たちに気づいて一瞬すごい驚いた顔をしたが、すぐに笑顔に戻ってこちらへと向かってきた。…懐かしいなあこの感じ。


「久しぶりだね。」


笑顔を崩さずそう述べた彼女に、俺はひとりものすごく動揺していた。だって、あの頃俺たちは、





氷点下の地球儀
(隣を歩く彼女の手を握ることはなく、)
(俺の初恋は儚く散った。)


20130206 by花畑心中

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