Amour | ナノ


あの時も、

彼氏はいらないって思ってるわけではない。ちょっと凹んでるときとか、寂しいなーって気持ちになってる時に、誰かが隣に居てくれたら、とか思ったりするし。ただ、彼氏っていう存在に、自分の夢を邪魔されたくなくて。その人のために自分の好きなものの時間を割くのは嫌だった。…けど今は、その考えがバスケに向いてる。


「紗由先輩って本当に高校でバスケ辞めちゃうんですか…?」
「どーしたの?いきなりすぎない??」
「さっき月バス読んでてそんな記事があったんで…」
「あれか。…まだ確定じゃないよ。ぽろっと辞めるって出ちゃっただけ。」


そう言うとなぜか後輩は安心したような顔をして自分のロッカーへ戻って行った。
あの子にはああ言ったけど、本当は辞める気満々だ。だから大学も一般で受けるつもりで受験勉強してる。 高校に入ってバスケに夢中になって過ごしてきたけど、その傍らで自分が犠牲にしてきたもの、捨ててきたものが目に付いた。体育祭で彼氏や好きな男の子を必死に応援してる子。文化祭で少しでも可愛く見えるようにと化粧や髪型に力を入れてる子。修学旅行で思い切って告白してる子。あたしが捨ててきた女らしさを持ってる女の子がたくさん居て。黄瀬の隣に居るとそんな子ばっかり目に入って。ああ、あたしも女の子やりたいなあ、なんて思った。


「今日は先帰るねー」
「あ!さっきの男の子が体育館前で待ってたよ!」
「黄瀬かあの人かはっきりしてよー!」
「いやだから黄瀬はただの友達だって!」
「いーから早く行きなって!」




*





靴に履きかえて体育館を出ると、幸村は目の前の花壇の前に立って花を眺めてた。相変わらず花が好きなのか。そんなことを思いながら名前を呼んだ。


「高屋は今おばあちゃん家に住んでるんだっけ。」
「うん。学校に近いから登校が楽だよ。」
「そう。じゃあ未だに電車は苦手?」
「電車は慣れたよ。バスケしによく東京行くから。」


この道は平日の七時代は案外人が少ない。部活帰りの中学生はもう少し早く帰ってるし、同じ高校生はこの時間にやっと学校の最寄りの電車に乗れてるかぐらいだから。近すぎず遠すぎない間隔を空けて、駅までの道を歩く。


「俺さ、高屋に謝りたいことがあるんだ。」
「謝りたいこと?」
「余計な感情は成長を妨げる。って昔言ったことあるだろ?それは間違ってるって、俺は中学最後の夏に知ったけど、高屋に言ったこと忘れてた。」


だから、ごめん。幸村は立ち止まってこっちを見ながら謝ってきた。なんだ、幸村はとっくのとうにそのことに気づいてたのか。


「高屋は俺のせいでバスケ以外に手が出せなかった。そのことに…今日気づいたんだ。本当に」
「謝らなくていいよ。あたしだって馬鹿じゃないもん。その言葉を真に受けてたのは中学までだから。」


女子は男子より精神面での成長が早いから。じゃあなんでこんな風にバスケの為に色んな物を捨ててきたのか、それはただ、逃げてきただけだ。幸村の言葉に頼って、いろんなものから逃げてきた。幸村に対する、自分の想いから。


「バスケと何かを一緒にするってなったとき、本当に両方とも続けられるか、自信なくて。」




まばたきと意地っ張り
(届かないと知っているから)
(踏み出す勇気なんてなかったから)


20130310 by花畑心中

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