キラキラした世界だと思った。笑顔を作るんじゃなくて、配れる人になりたいと思った。


「惜しい惜しい。もう一度やってみよう?失敗は今のうちにしといたほうがいいから!」
「…はい。」


アルバイトを始めてから一か月。2月に入ってからは本格的に作業をするようになった。一人でレジに入って接客して、先輩のサポートを受けながらバーでドリンクを作る。だけど、どちらもなかなかうまくいかない。


「じゃあちょっと混んできたから、交代しよっか。」


レジでは声が小さくてお客様に聞き取ってもらえなかったり、敬語がうまく使えなくて注意されたり。お金を渡すときに「千円からお預かりします。」がダメなんて知らなかった。前にお弁当屋さんでバイトしてるときは普通に使ってたからなあ。


「お疲れ新田」
「黒尾くん…これから?」
「おう。お前はこれで上がりか。」
「うん。頑張ってね。」


二人が同時にお店で働くことはほとんどないけど、三回目に会ったときにlineのIDを交換してから、バイトについて話すようになった。黒尾くんは頭の回転が早くて、記憶力もいい(気がする)。入れ違いで何度か彼が仕事をしてるとこを何度か見てるけど、私なんかよりも進みが早いと思った。
別に一番を取りたいとか、黒尾くんに負けたくないって思うわけじゃないけど、だけどなんか、悔しくて。家に帰ってはその日やったことを復習して予習するけど、成果が見られなくて。話すのには自信があったし、記憶力も結構自信あったんだけどなあ…ちょっと凹み気味だ。


「…最近元気が無ぇって、先輩たち心配してたぞ。」
「え?」
「入ってきたときは挨拶が一番大きくて、店で一番ってくらい元気だったのに、って。何に落ち込んでんのか知らねーけどさ、元気出せよ。」
「…」
「どんなことがあっても、エプロンつけたらドヤ顔で立ってろ。」
「…いい雰囲気だったのに、ドヤ顔って、」
「ジョージさんが言ってたんだよ。お客さんからしたら、誰が新人で誰がベテランかなんて関係ねぇから、とにかくドヤって、笑ってればいいって。…お前、気付いてねぇのかもしんないから言うけど、バーに立ってるとき、すんごい楽しそうに笑ってんだぞ。」


ここに居るのが幸せって顔してる。









「幸せ、かあ…」


家に着いて真っ先にジャージに着替えてベッドにダイブ。そういえば、初めてお店に行ったあの日、鈴木さんことスズさんに「二人はライバルでもあるけど、たった一人の同期でもあるんだよ。」なんて言われたなあ。今日の黒尾くんはまさにそんな感じだった。高校生の自分には、同期って言葉がなんだかむずがゆいけど。


「みんなが見てて楽しくなるような、そんなドリンク作りをしよう。」


今あたしが目指すべき目標を設定して、また明日から頑張ろう。落ち込んでいても、バイトの日はどんどんやってくるんだ。それなら、少しずつでも成長していかないと。






(まだ見ぬセカイ)



20131030 by星屑


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