高校三年生の8月中旬頃、あたしはサッカー部を引退した。女子サッカー部なんてなかなかなくて、必死に探し回って入りたいと思ったこの高校。入部してから引退まで、あっという間の二年半。それなりの強豪校だったから、練習は厳しかった。おかげで頭は勉強よりも部活。毎日サッカーのことばっかり考えてて、受験勉強をすることはなかった。


「決まったよ大学。」
「やっとだね。佳純んとこ結果出るの遅すぎ!」
「ほんとだよ…これで心置きなくバイトできる。」
「…お前そればっかりだね。ちょっとは勉強したら?」
「課題はそこそこやるよ!てかさ、結局どこ行くのか言ってなくない?」
「そーいえば。俺は桐川に行くよ。」
「え…学部は?」
「スポーツ科学部。…待ったもしかして、」
「うん。そのもしかしてです。」
「ふふふっなんか笑えるんだけど」
「岩ちゃんは?」
「社会学部だってーもうほんと岩ちゃんてば俺のこと大好きなんだから!」
「…大学まで一緒とかもう結婚でもしたら?」


受験勉強を全く始めようとしないあたしに、担任の先生は苦笑いで指定校推薦を勧めてきた。就職氷河期とついこないだまで言われていたように、今は高卒で採用してもらえるとこなんてなかなか見つからない。だったら一応でも大学には行きなさい、と。なので一応オープンキャンパスに行って、大学を決めた。そしたらまさかの幼馴染みと同じ。


「また三人揃うね」
「明日にでも岩ちゃんに言っとこー」
「その時の写メよろしく!」


サッカーを続けたくて、仙台を出た。東京に出るにあたり、家族全員で引っ越しなんて案も出たけど、幸い高校に寮があったのでそこに入ることにした。大学では一人暮らし。


「一応夜道には気を付けるんだよ。」
「一応ってなによ…」


思いっ切り大きな音を立てて通話終了ボタンを押してやった。あたしは頭の回転が速いくせに慎重で、なかなか前に進めないのだけど、大きな決断となると直感で動くことが多い。高校進学も、大学進学も、一人暮らしも。そして、年明けから始まる新しいバイトも。


「楽しいといいな。」






(昼下がり、青い旋律)


20131006 花畑心中


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