05
不思議な人に出会った。


「じゃあお兄さんはなんとなく大学に行ったんですね。」
「うん。学部もどこでもよかったからさー、一番偏差値の低い経営学部に進んだんだよ。」
「でも氷帝って十分頭いいですよね…」
「内部だからそーでもないんじゃねー?てかてかさくらちゃん氷帝来なよ!」
「いやいや…頭もですけどそんなお金ありません。」


今日は部活がオフだから、ちょっと駅前のビルをぶらぶらしようと歩いていたら、ポテトが美味しいファストフード店のテラス席でぐーすか寝ている男の人を見つけた。その人は周りからかなり視線を集めていたので、同じように見つめていたのだけど。


「話し相手いないと寝ちゃうからさ〜」
「お友達随分遅いんですね。」
「ほんとだC−!ちょっとlineするー」


突然ばっと顔を上げて、その瞬間に目が合ったあたしはこの人に呼ばれて話し相手になった。なんかお友達を待っているらしいんだけど、遅刻されてるみたいだ。そしてこのお兄さんもといジローさんはどこでも寝られるらしく、気付くと寝てしまうそうだ。もうすでにお店の人に二回ほど注意されていたみたい。


「さくらちゃんはどうして大学行くの?」
「…働くまでの猶予が欲しい、と言いますか、」
「まあそーだよねー。俺もいますぐ働けーなんて言われても無理だC−」
「お兄さんはすぐ寝ちゃうから怒られますよ。」
「そうそうーだから働くの向いてないんだよねー」


けらけら笑うお兄さんは本当に大学生なのか疑いたくなるような見た目。正直、蔵くんと同い年とか嘘だと思う。まあ蔵くんも年齢詐欺だと思うけど。


「でも、あんまし難しく考えてると、楽しい時間が終わっちゃうよ?高校生なんて二度とできないんだから。」





「ただいま。」
「おーさくら!ちょーどええとこ帰ってきたわ!」


玄関を開けるとリビングにつながるドアから顔だけ出してる蔵くんが居た。その声と共に愛犬のジャムがこちらへと走ってくる。


「もしかして散歩?」
「おん。ついでに買い物も行くから、一緒にどう?」
「荷物おいてくるからちょっと待ってて!すぐ行く!」


蔵くんに今日会ったお兄さんの話がしたくて、慌てて部屋に飛び込み鞄を投げ捨てるように置いた。お弁当とか壊れてないよね、投げた先はベッドだし。急いで玄関に行って、ジャムのリードを蔵くんから受け取る。


「あのね、今日部活がオフだったから買い物行ってたんだけど、」


こんな風に、毎日の出来事を話せるのが、すごく嬉しい。


今はまだ遠い宙

20140124 by秋桜

prev next
bkm