03
進路について考えるのはこれで何度目だろう。中学の頃も散々悩まされたなー。そう思いながら進路用紙をボーっと眺める。これの提出期限は明後日だったけ?

部活があるからまだ決められないってずっと言い訳してるけど、夏休み前に志望校は決めなくちゃならないんだよな。


「随分と難しい顔してるな。」
「手塚先生、」
「何か悩み事か?」


部室の前にあるベンチに座ってたら、グラウンドに出てきた手塚先生に声をかけられた。手塚先生はうちのクラスの教育実習生。正直、担任の先生よりもしっかりしてて貫禄もある気がする。蔵くんと同い年だと気付いたときはとても驚いた。


「手塚先生って、どうして教師になろうと思ったんですか?」
「…進路の悩みか。」
「はい。具体的な将来の夢とかなくて。」


幼稚園の頃はよく、将来の夢をいろんな形でたくさんの人に話していたけれど、中学生になってから夢を語るのが恥ずかしくなった。普通にどこかで働ければいいかなって。だけど今は、大人になるのが怖い。


「俺は、昔から感情を表に出すのが苦手でな。教師には向いてないと思っていたんだ。」
「確かに、先生っていつも無表情ですよね。」
「だから、言葉で想いを伝えられるように、言語表現学を学んで、それを誰かに教えたいと思ったんだ。同じような思いをしてる人がいるかもしれないだろう。」


手塚先生はいい意味でも悪い意味でも優しい人だ。ほかの誰かがこれを言ったら、そんな都合のいい話どうでもいい。と言われてしまうだろうけど、手塚先生は裏がない人だからなあ。きっとこれも本心なんだと思う。なんか、上からでごめんなさい。


「ご両親に話してみたらどうだ?」
「今居候してるんです。」
「そうだったか…じゃあその人に話せばいい。年上の方だろう?」
「はい。」
「その人にどうしてその道を選んで歩いているのか聞いてみるといい。そこから、何か見つけられるはずだ。」


手塚先生はスッと立ち上って校舎に戻っていった。少しして校内に下校のチャイムが鳴り響いて、あたしはゆっくり歩きながら学校を出た。


蔵くんは、何になりたいんだろう。


揺れる想いは何を意味して

20130422

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bkm