蒼に出会う
嘘で埋め尽くされた世界で
あなたが言った言葉は真か偽か。
見極め方が見つからない。





ザーザーと激しく降り続ける雨を横目に長い廊下を歩く。向かう先は屋上。C棟の屋上は半分くらい屋根で覆われているからこんな日でも心配ない。雨が降っているのに屋上に行きたがるあたしを見て真田は変な顔をしていたな。
鉄の塊のドアを押しあけたら、そこには一人の男の子が居た。彼は真田の幼馴染である幸村君だ。


「こんな土砂降りの日にここへ来るなんて随分と物好きだね。」
「むしろ雨が降ってるから来たんだよ。幸村君はなんで居るの?」
「花を見にね。あまりに酷い雨だったから、ちょっと心配で。」
「それでかー真田に言われてたんだ、幸村君が居るかもって。」
「昼休みは大抵ここに来るよ。…それより、なにか悩みでもあるの?」


視線を花からあたしに移して幸村君はそう言った。何をみてそう思ったのか分からないけど、このモヤモヤは誰かに話さないと晴れない気がして。思い切って口を開いた。


「幸村君って、嘘ついたことある?」
「あるよ?佐山さんはないの?」
「いや、あるよ。けど、その普段つく嘘とは違うっていうかなんていうか…今世紀最大の嘘、みたいな感じ。」
「…佐山さんって厨二病?」


真顔でそんなこと聞いてくるもんだから少し呆れ気味に否定した。真田から聞いてた幸村君は結構真面目というイメージだったんだけど。


「そんなに深く悩まなくてもいいんじゃないかな。なんか似たようなこと、聞いたことある。」
「もしかして、柳君?」
「そう。蓮二はね、夢の中の自分が本当の自分なんじゃないかって錯覚するらしいんだ。」
「夢の中…テニス部の自分ってことか、」
「だけど、今蓮二はこの立海大付属中で生徒会役員をしていて、家元で茶道を習ってる。これは紛れもない真実だろ?」


それじゃあまるで、俺たちが偽物って言っているみたいじゃない?
ズバッと放たれた言葉に身震いした。確かにそうだ。生きていることを嘘だと言われるなんて、とんでもない。あたしたちはあたしたちなりに、15年間精一杯生きてきたんだ。


「ごめん、なんか暗い話して。ただでさえ雨が降っててどんよりした気分になるのに…」
「ううん。園芸部の俺からしたら雨は大歓迎だからね。ここんとこ晴ればっかりだったから嬉しいんだよ。」


彼はまた、視線をあたしから花に移して嬉しそうに笑った。


あたしも雨は嫌いじゃない。雨の日は心が洗われる日だと思ってるから。雨が降れば、胸の内に溜まった嫌なこと、悲しいことが流れ出ていくから。だから、嫌いじゃない。はずなんだけど。


今日の雨はどうも、あたしの心を綺麗さっぱりと洗い流してはくれないようだ。






涙に隠れる嘘



20130429


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bkm