生徒会役員:柳蓮二
データ通りに進まなかったとき、
研究者はどのように、その先を見極めるのだろう?





教室が入っている棟、つまりB棟の向かいにあるのがC棟。ここには図書室や生徒会室がある。授業中はよくこの棟を通って1階の職員室へ行ったりするけれど、放課後となるとC棟はかなり静か。A棟から流れてくる吹奏楽部の音色と野球部の声出ししか聞こえない。
そんなところになぜあたしが居るのかというと、本来なら部長が出すべき活動報告書を代わりに出しに行くことになったからだ。部長は絶対に外せない約束があるとか。


「失礼しまーす…あれ、柳君ひとり?」
「やはり佐山が来たか。今は皆、それぞれの担当分の報告書を回収しに行ってるぞ。」


生徒会室に入れば、並んでいる椅子に座っているのは書記である柳君だけだった。彼は担当が文化部なので、よくお世話になっている。


「来るってわかってた?」
「ああ。鈴野が随分と浮かれていたからな。」
「顔にすぐ出ちゃうタイプだからね」


柳君と料理部の部長は現在同じクラス。彼女は誰彼構わずのろけ話を始めるので、学年ではそういった意味で有名だ。中学生はそういうのに興味津々だからね。


「今日も言っていたぞ。佐山と柳生が何故付き合わないのか、と。」
「またー?それに関しては何十回と否定してるんだけどなー」
「それは、柳生を幼馴染としか見てないということか?」
「それもあるけど…なんていうのかな、今は恋愛どころじゃないっていうか。」


もっと恋愛よりも打ち込まないといけないことがある気がしてね。

そこまで言って、なんだか不思議な、胸のあたりがモヤモヤする感じがした。まるで、ウソをついているような、そんな感覚。これ、いつかも感じた気がする…。


「少し変なことを言ってもいいか?」
「…なに?」
「俺は最近、変な夢を見るんだ。」
「変な夢?」
「俺は昔から家柄もあってずっと茶道だけをしてきたのだが、夢の中の俺はテニスをしているんだ。」


毎日毎日、ひたすらラケットを振り続け、黄色いテニスボールを追いかけている。場所も立海大付属中のテニスコートで。部室にはいくつものトロフィーが飾られていて。


「その夢を見た日から、なんだか毎日ウソをついているような感覚に陥るんだ。」
「…それって、こう、胸のあたりがモヤモヤってする、そんな感じ?」
「ああ。そしてまた面白いのがな、部員として出てくるメンバーが、誰一人今現在テニスをやっていないんだ。」


柳君の顔は真剣で、だけどどこか嬉しそうで、たぶん本人も気付いていないんだろう。


「お前も、だぞ。」
「へ?あたし?」
「お前は俺たちのマネージャーらしい。いつも、テニスコートを駆け回っている。できるなら、この夢をほかのメンバーにも見てもらいたいんだがな。」


それは、難しい話だ。柳君は手元の報告書を確認し始めた。あたしは彼に話された夢の話で頭がいっぱいで、そのあとは曖昧な返事しか出来なかった。




手元に残ったクリアファイル



20130424


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