幼なじみの君へ
「ゆき、ネクタイ忘れてるっておばさんが。」
「おー。すっかり忘れてたわ、今日朝礼だもんな。」
「明日から夏休みなんだね。」
「試合だらけで休みって感じしねーけどな。」


いつもと変わらない話をしながら学校への道を二人で並んで歩く。
時間になると先に出てくゆきを後から追いかけるのがあたし。
こうやって二人で学校へ行くのは小学校から。
幼稚園はバスだった。


「夏休みってことはさ、ゆきの誕生日じゃない?何か欲しいものある?」
「欲しいもんなぁー…あ、バッシュ」
「そーかそーか笠松クンはまいう棒の詰め合わせが欲しいのねー仕方ないなー」
「冗談に決まってんだろ!まいう棒はいらねぇ!!」


学生にバッシュ買わせるなんて、破綻しろってことだよねまったく。
額にじわじわと出てくる汗をタオルで拭いながら校門をくぐると、見覚えのある黄色を発見。


「ゆきもかなり気合入ってるけど、黄瀬も負けないぐらい気合入ってるよね」
「やっと誠凛にリベンジできるしな。それに敗北から得るもんはでけぇってことだ。」


その台詞はまるで自分に言い聞かせてるみたいで、思わずスクバを持つ手に力が入る。
それと同時に去年のI・Hがフラッシュバックした。




「笠松、監督が呼んでるよ。職員室だって。」
「わかった。13時20分から再開だから」
「りょーかい!」


体育館を出てくゆきを見送ってからあたしも部室へと向かう。
部活中は選手とマネージャーなのでゆきのことは苗字で呼ぶ。
逆も然り。…あんまり呼ばれないけど。

着替えてる人は居ないよねと思ってノックせずにドアを開けたら、ニヤついてる人物が二人いた。


「何してんの」
「いやあ、ちょっと白井先輩に聞きたいことがあって」
「まあとりあえず座れ」


森山と黄瀬の間のスペースに座らされる。
この二人に絡まれるって、あまりいいことない気がするんだけど。


「いいか白井、俺たちはもう高校生活最後の夏を迎えている。」
「そうだね。それが?」
「それが?じゃないっスよ!笠松先輩のことどーするんスか!!」
「…だからこの二人なんだ。いいよ二人ともメニュー倍にしてあげても」


なんで!!とうなだれる森山と黄瀬。
いやあたし暇じゃないし!


「大学まで一緒とは限らないんだから、今しかないだろう?」
「明日先輩の誕生日だし、告ったらどースか?!」
「はいはい。言いたいことはよくわかったから、早くお弁当食べな」


二人を避けながら立ち上がる。
あー無駄な時間過ごしちゃったよ。
マネにとっても昼休憩はとっても楽しい時間なのに!


「まあ二人が心配してくれたことには感謝するよ。」
「へっ?」
「もともとそのつもりだった。いい報告ができたらいいね」




「日曜なのに早上がりって珍しいね」
「明後日からI・Hだからじゃねーか?」
「準備でもしろよってこと?ムリムリ、みんなどーせバスケするんだから!」


I・H前最後の日曜日。
部活が15時に切り上げられたので帰りに二人でパフェを食べに行くことになった。

ちなみに今日はゆきの誕生日である。
てっきり黄瀬あたりがゆきを連れてっちゃうと思ったんだけど
「俺たちはここで祝うんでいいんスよ!」なんて言われた。
別に家隣だし、よかったんだけどなあ。


「瑞希?」
「ん?」
「何にすんだ?」
「あー、イチゴにしよっかなーでもツナも美味しそう…」
「俺ツナにするからお前イチゴにしろよ。」
「…え、」
「あんなきっつい練習の後に甘いのはちょっとな。ほら行こうぜ」


せっせとレジに向かうゆき。
さり気なくこういうことしちゃうから、好きになっちゃうんだよ!!
…それに、


「、交代」
「はいはい。その辺座って待ってて」
「わかった。」


店員さんが高校生と思われる女の子だった。

ゆきは女の子が苦手だからあたし以外とはろくな会話もできない。
ちょっとした優越感だよね。


「ゆき食べんの早すぎ」
「瑞希が遅ぇだけだろ」
「まだそっち食べてないよ!」
「ん、そっちもくれ」


いつプレゼント渡そうかなーと考えていたら近所の公園を発見。
よし、覚悟を決めろ自分!

公園の入り口付近で立ち止まると、不思議に思ったゆきが振り返って向かい合う。


「誕生日おめでと」
「サンキュー。開けてもいいか?」


あたしの返事を聞く前に袋の飾りをいじりだす。

中から出てきたのはオレンジのフェルトで作ったお守り。


「これって、」
「ゆき専用のお守り。願いはきっと君が思ってることだから安心してよ」


海常バスケ部は基本1・2年が部員とマネの分のお守りを作る。
だから今年、あたしはゆきにお守りをあげてないのだ。


「ねえ、ゆき」
「なんだ?」
「好きだよ」
「…はっ?」
「バスケしか興味なくて短気で喧嘩っ早くて女の子とまともに話せなくて、だけどその分チームメイトを大事に思ってる。そんなゆきがずっと好きだった。」
「んなの、」
「今すぐにとは言わないよ。I・H、ううんWCが終わったら、付き合ってくれませんか?」


真っ赤に染まった自分の顔。
それまでずっと手元を見てた目線をあげてみると、同じように真っ赤なゆきがいた。


「なんだよ…WCが終わったら俺が言うつもりだったのに」
「へっ?」
「早く帰んぞ!明日も部活だかんな!」


意外な返事に足が動かなくてその場に立ち尽くす。

振り返ったゆきが「冬まで待ってろ」なんて言うから
思わず泣きそうになった。




となりのショートケーキも祝福した
(まあいいんじゃないスか?)
(俺もそれでいいと思うよ)
(だから絶対勝ってね!頼むよ黄瀬!)
(そうなるんスね…)

by魔女 20120729 笠松Birthday


prev next

bkm